作家の読書道 第282回:友井羊さん
2011年に少年が原告となるリーガルミステリ『僕はお父さんを訴えます』で第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞、翌年同作を刊行しデビューした友井羊さん。 その後『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』シリーズをはじめ料理ミステリで人気を博し、かと思えば実際の冤罪事件を扱った骨太な作品『巌窟の王』を発表。硬軟自在の作風はどのようにして生まれたのか。その読書遍歴や小説家になった経緯をおうかがいしました。
その5「社会人になってからの読書傾向」 (5/9)

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- 『佐藤友哉デビュー20周年記念復刊企画 フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人 (星海社 e-FICTIONS)』
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――大学を卒業してからは、どうされたのですか。
友井:氷河期まっさかりだったので就活したくないと思い、本当にまったくしなかったんです。学生時代から、先輩に紹介されてゲーム関係のライターめいた仕事をしていたので、卒業後はその仕事量を増やして生活していました。ゲームの原案の資料をもらって、ゲーム製品をもらって、誌面のレイアウトをして、攻略方法とかを書いて...。ひとつの媒体から請け負う仕事で一杯で、他の仕事はできない状態でした。1年くらいそこで社員としても働いたんですが、2日徹夜して次の日の夕方5時に帰るような生活だったんです。夕方5時に帰宅というと一見他の会社員と一緒なんですけれど...。それで、その仕事を続けていくのはちょっと無理だな、となりました。
――そこで文章を書く作業や編集作業をおぼえたわけですね。
友井:そうですね。文章を書く練習にはなりました。文章に必要十分な情報を入れ込む作業というか、必要なものを伝えなくてはならない商業的な目線での文章というものは学びました。膨大な資料を300ワードにまとめるような作業をしていたので、今でも小説のあらすじ作りが得意です(笑)。
――その頃、本を読む時間はあったのですか。
友井:その頃、乙一先生の同時代に活躍されていたミステリ系の人に目覚めました。それこそ乙一先生と同じく「ファウスト」で書いていた佐藤友哉さんや西尾維新さん。伊坂幸太郎さんや辻村深月さん、桜庭一樹さん、道尾秀介さん、森見登美彦さん、麻耶雄嵩さんたちの作品を立て続けに読んでいたのがその時期かなと思います。
――それぞれどの作品が好きですか。
友井:佐藤さんは『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』や『水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪』とか。桜庭さんでいちばん印象に残っているのは『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』かな。伊坂さんは『チルドレン』や『死神の精度』、道尾秀介さんなら『向日葵の咲かない夏』で、辻村さんの作品では、意外に思われるかもしれないけれど、いちばん好きなのは、『僕のメジャースプーン』です。
――『僕のメジャースプーン』は、心を閉ざした幼馴染みのふみちゃんを助けようとする少年の話ですね。
友井:あれは結末の驚きがすごかったので。子どもを主人公にしてああいうことができるというのも、『僕はお父さんを訴えます』などで影響を受けた気がします。麻耶さんでいちばん好きなのは『神様ゲーム』。それと、森見さんはその頃にちょうど話題になっていた『四畳半神話体系』も好きなんですけれど、僕がいちばん好きなのは『ペンギン・ハイウェイ』です。
――突然街に現れたペンギンについて調べ始める男の子の話ですよね。おうかがいしていると、少年少女が主人公の、ちょっと切実な何かがこもった物語が多くないですか。
友井:言われてみればそうですね。当時、文学好きの友達から教わった本のなかで好きだったのは木地雅映子さんの『氷の海のガレオン』でした。木地さんは『悦楽の園』も好きでしたし、あとは梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』も印象に残っています。
――それらは、どれも少女が主人公ですね。
友井:それと大学を卒業したあたりで、自分の中で海外小説を読もう的なムーブがありました。ガルシア=マルケスの『百年の孤独』、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』、ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』、あとはサラ・ウォーターズの『半身』とか。それと、アゴタ・クリストフの『悪童日記』は衝撃的でした。あれは三部作ですけれど、一作目のこの本がすごくよかった。
――『半身』はミステリですけれど、考えてみたらホームズ以降、海外ミステリはあまり読まれてこなかったのですか。
友井:ほとんど読んでいないと言っていいと思います。お恥ずかしいくらい。カーの『皇帝のかぎ煙草入れ』を勧められて読んで「すごい」と思ったりはしたんですけれど、あまりそこから広がらなかったんですね。もっと古典ミステリを読まなければ、という気持ちはずっとあるんですけれど...。

















