作家の読書道 第282回:友井羊さん
2011年に少年が原告となるリーガルミステリ『僕はお父さんを訴えます』で第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞、翌年同作を刊行しデビューした友井羊さん。 その後『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』シリーズをはじめ料理ミステリで人気を博し、かと思えば実際の冤罪事件を扱った骨太な作品『巌窟の王』を発表。硬軟自在の作風はどのようにして生まれたのか。その読書遍歴や小説家になった経緯をおうかがいしました。
その7「リーガルミステリと料理ミステリ」 (7/9)
――新人賞に応募したのは、どんな作品が多かったのですか。
友井:基本ライトノベルでした。児童文学系を書いたりもしました。
――2011年に『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を受賞した『僕はお父さんを訴えます』はシリアスなリーガルものですよね。がらっと作風を変えたわけですか。
友井:それはもう、落ちまくったからですね。そもそも自分でライトノベルをほとんど読んでいなかったのにそういう賞に応募していたのは、相変わらず漫画は読んでいたし、自分に一般文芸を書ける気がしなかったからなんです。でもある日書いたものを読み返してみて、自分は一般文芸でいけるんじゃないかと思って。
どうしたら面白いものになるか考えた時、「みんなが知っているけれど、よく分かっていないものを書こう」と戦略を練りました。で、民事裁判ってみんな知っているけれどよく分からないよな、と。そこから小説の理論や『キャラクター小説の作り方』などを参考にして、誰が民事裁判を起こしたらいちばん大変かと考えて、子どもだろう、と。勉強してきたことを重ねていって出来上がったのが、『僕はお父さんを訴えます』ですね。トライアンドエラーの結果の作品です。
――可愛がっていた愛犬を殺したとして、少年が実の父親を訴える。弱い子どもが懸命に戦おうとする話ですよね。それにしても、法律や裁判に関する知識はあったのですか。すごく丁寧に書かれていますよね。
友井:実は兄が弁護士なので、ありがたいことに細かな部分は聞くことが出来ました。ただし頼りすぎはよくないので、可能な限り自分で調べて、最終確認だけにとどめるようにしています。
――なるほど。ところで、お話をうかがっていると、めちゃくちゃミステリ作家になりたかった、という感じではないわけですよね?
友井:いやもう、いまだにミステリ作家なのかな、という疑問が自分の中にあります。どうしても、ずっとミステリが好きでやってきましたという作家の方々のなかに自分がいてもいいのだろうか?みたいな気持ちがあります。自分はミステリを書きたいというより、面白い話を書くために結果的にミステリにしました、という感じなので。
ただ、これまでにミステリ要素を入れ込まずに書いた作品もありますけれど、僕はミステリという手法自体がすごく好きですし、ミステリにして書くことの意味も大きいと思っています。これからも、ミステリ色をしっかりと出しつつ、エンタメと両立させていければと思っています。
――料理が絡むミステリも多く書かれていますが、『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』が最初でしたっけ。あれはどういうきっかけだったのですか。
友井:自分が食べることが好きでもあったので...。もしかすると料理ものは『スイーツレシピで謎解きを』の第一話を「小説すばる」に書いたのが最初だったかもしれません。『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』は、編集者さんから「朝ごはんを書きましょうよ」と言っていただいたのがきっかけです。「いいですよ!」と言った後で、朝ごはんだけだとちょっと弱いかなと思い、「スープはどうですか」って。結果的にスープを選んでラッキーでした。
――「スープ屋しずく」シリーズは累計60万部のロングセラーシリーズとなり、今年出た最新刊で10冊目。謎解きはもちろん、実にいろんなスープが登場するのも魅力ですよね。
友井:スープって世界各国にあって、種類が多いので、毎回話に合わせたスープを出せるというのが大きいですね。話を考えてから内容に合うスープを探してみると、世界のどこかに絶対あるんです。スープから話を考えることもありますし。
――作品に登場するスープって、自分でも作ったりしているのですか。
友井:作ることもありますし、食べに行くこともあります。食べに行って美味しかったものや印象的だったものを出すこともあります。日々収集している感じです。
――一方、『さえこ照ラス』と続編の『沖縄オバァの小さな偽証 さえこ照ラス』は、沖縄の法テラスを舞台にしたリーガルものです。これはなぜ、沖縄だったのですか。
友井:さきほどいった弁護士の兄が今、沖縄に住んでいるんです。僕もだいたい毎年1か月くらい沖縄に滞在しています。なにより沖縄がものすごく居心地がよくて、たいへん魅力的な場所だという理由で書きました。
――ああ、友井さんはSNSに美味しそうなお店の料理をたくさんあげてらっしゃいますが、沖縄のお店もすごく多くて、どうしてそんなに詳しいのかと思っていました。あのシリーズは今後も続くのですか。
友井:続けられればとは思っています。ライトなシリーズではありますが、沖縄はいろんな問題を抱えているので、そういうものも含めて書けたらいいなとは思います。
――他にリーガルものでは、冤罪を題材にした『無実の君が裁かれる理由』という作品集を発表されていますよね。それが最新刊の『巌窟の王』にも繋がるのかなと思ったのですが。
友井:そうですね。もともと『無実の君が裁かれる理由』を書くために冤罪についていろいろ調べていている時に、昭和の巌窟王事件のことを知ったんです。







