第285回:嶋津輝さん

作家の読書道 第285回:嶋津輝さん

40代になってから小説教室に通ってデビューを果たし、単行本3作目の『カフェーの帰り道』で直木賞を受賞した嶋津輝さん。市井の人々の日常を、ユーモアを交えて描く筆致の源泉はどこにあるのか。その読書遍歴や昭和好きになったきっかけ、デビューにいたる経緯などたっぷりうかがいました。

その2「部活で青春を満喫」 (2/9)

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――中学生時代の読書生活はいかがですか。

嶋津:中学時代はそんなに本を読んだ記憶がなくて。通っていたピアノ教室のレッスンの順番待ちをするところに漫画が置いてあったんです。そこに『日出処の天子』の2巻だけがあったんですよ。2巻だけ読んでも面白くて「なんだこれは」となり、そこから山岸凉子さんを読みだしました。他にも漫画は『王家の紋章』などの大作を読んでいました。『王家の紋章』はたしか姉が好きで買っていたからだと思います。

――その頃、小説はあまり読まなかったのですね。

嶋津:そうなんです。でも、学校のテストになると、他の教科と比べて国語だけ異常にできたんです。たぶん子供時代に読んでいたのが効いたんだと思います。不思議と古文漢文も分からないのに結構正解できて、国語は勉強しない私でも高得点がとれるありがたい教科でした。

――高校時代はいかがでしたか。

嶋津:家から片道1時間かかる高校に進学したうえに、水泳部で飛び込みという競技をはじめて。それが非常に疲れる競技で、とにかく眠くて。若いということもあったのか、行きの電車も帰りの電車も寝ていましたし、授業も1時間目から5時間目まで寝ていたこともありました。ちょっと職員室で問題になるくらいに。

――なぜまたいきなり飛び込みを?

嶋津:たまたま高校に飛び込みができるプールがあったんです。クラスで仲良くなった友達が飛び込みをやりたくてうちの高校に来たという子で、その子に誘われて、珍しいから入ってみようかなという感じでした。

――高いところから飛び込むのは怖くなかったんですか。

嶋津:めちゃめちゃ怖くて、私は全然向いていませんでした。本当に迷惑な劣等生だったと思います。でも、それも気にならないくらい本当に楽しくて、青春だなと思って毎日過ごしていました。夏休みの合宿は飛び込みのプールがある場所が他になかなかないので、学校でするんですね。わりとスポーツが盛んな学校だったので剣道場や柔道場も個別にあって、泊まるところもあって。1週間くらい泊まり込んで、食事は近くの食堂に先生に連れられて行きました。夏休みが終わるのが悲しくて、最終日に感傷的になってふらっと学校に行ってプールを眺めて帰ってきたくらい、楽しかったんです。他のことはほとんどしていないです。

――部活ではどんなメニューをこなすのですか。

嶋津:ゴールデンウィークにプールを掃除して水を張り替えたら、9月末くらいまでは毎日飛び込みです。5月はまだいいんですけれど、6月の梅雨の時期が寒くて。競泳と共用のお風呂にまめに入りにいきました。しかも私はすごく痩せた高校生で、脂肪がなかったので特に寒くて。飛び込み台で後ろ向きに構えていても震えて、それが飛び板に伝わって板ごとガタガタガタと震えて飛び出せなくなって、一人だけ「お風呂に行きなさい」って言われるような問題児でした。

――上手く飛び込めないと、水面で体を打って痛くないですか。

嶋津:ものすごく痛いです。いまだに人生でいちばん痛い記憶を塗り替えていないですね。出産経験がないというのもあるんですけれど。意外とお腹より、背中が痛いんです。それと、かなりアザができるんですよね。高校時代の春夏は、少々露出のある格好をして街を歩いていると人目を集めるくらい、アザだらけでした。

――読書する時間もなかったのでしょうか。

嶋津:高校の頃は、読書感想文の課題図書くらいしか読んでいないです。あとは、夏休みに母の実家に行くと、文学全集があったんですね。母の実家はセールスがくるとなんでも買っちゃう家なので、それで揃っていたんだと思います。その全集で太宰治の『斜陽』などを読んだ記憶があります。『斜陽』は、お母さまがスウプをさじで吸っているという出だしに惹かれて読みました。やはり、小道具に惹かれるんですね。あと、人が食べているものも気になるので。
それと、有吉佐和子さんを読みました。高2の夏休みの宿題に読書感想文があって、課題図書のリストを家に持って帰ったら、それを見た母と、同居していた叔母が「ああ、有吉佐和子ね」と言ったんです。じゃあそれにしようかなと思って『華岡青洲の妻』を読んだら、まあ大人っぽい内容なんですけれど、最後まで面白くて。教科書に載っている作品とはまた違う、大人向けの小説をはじめて読んだ感覚がありました。

――では、どんな読書感想文を書かれたのでしょう。

嶋津:たぶん照れもあって平凡な内容でした。私は数学が嫌いだったので、友達に数学の宿題を見てもらう代わりに、その友達が苦手な国語の宿題を引き受けて、短歌を作ったんです。夏休みの課題で優秀なものは小冊子にまとめられるんですけれど、自分の読書感想文ではなく、友達に書いた短歌のほうが載っていました。

――ところで叔母さんも同居されていたのですか。お祖父さんもいらしたようですし、ご家族が多くて賑やかだったのでしょうか。

嶋津:8人家族でした。祖父母がいて、両親と姉と私と弟がいて、父の妹の叔母が同居していました。でも、そんなに和気藹々とはしていませんでした。祖父母が近所でも評判の取扱注意みたいな人だったので。孫をぜんぜん可愛がらないので、祖父母との間に温かい思い出はないです。

――厳しかったのですか。

嶋津:厳しかったです。ただ、私は三人姉弟のなかではわりと自由にできたかな。祖父は5歳年下の弟だけ分かりやすく可愛がっていました。彼らにとっては跡取りで、スターなんです。姉も勉強ができる明るい優等生タイプだったので、私はあまり注目を浴びずに過ごせました。

――弟さんと本や漫画を貸し借りすることはありましたか。

嶋津:弟が中学生、高校生になると「ジャンプ」とかを読みだしたので、それを借りて読んでいました。『北斗の拳』の頃ですね。他の連載も充実していました。

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