作家の読書道 第286回:伏尾美紀さん
2021年に江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作『北緯43度のコールドケース』がはじめて書いた警察小説だったという伏尾美紀さん。第4作となる『百年の時効』で大藪春彦賞と吉川英治文学新人賞受賞と、瞬く間に熟達ぶりをみせる書き手はどんな読書遍歴を辿ってきたのか。探偵小説、警察小説、ノンフィクションなど、現在の執筆活動に繋がる読書体験が見えてきました。
その8「最近の読書と今後の予定」 (8/8)
――ところで、今も会社勤務のお仕事は続けてらっしゃるんですか。
伏尾:いえ、今は辞めて、小説一本でやっています。
――では、一日のルーティンは決まっていますか。
伏尾:だいたい決めて守るようにはしていて、基本的に午前中に執筆作業はするようにしています。だいたい午後2時くらいまでが集中力の限界で、2時を過ぎると集中力ががくっと下がるんです。2時から4時くらいまでが極端に集中力が下がる時間帯で、そこで無理して執筆しても結局よくない文章で書き直すことになるので、もう開き直ってゲームをしたりテレビを見たり、YouTubeを見たりしています。4時すぎから少しずつ集中力が上がってくるので、ゲラがあればその作業をしますし、ゲラがなければ新作に向けてのアイデア出しやプロット作りをやって、夕食後は1、2時間くらいまったりして。で、夜寝るまでの1、2時間はまたちょっとだけ集中力が上がるので、執筆をしたり、プロットを作ったりしますね。だいたいこれを毎日続けるという目標で頑張っています。
――自分の集中力が上がる時間帯を把握されているんですね。
伏尾:最初は全然分かっていなくて、一日中机に向かってがむしゃらに何か書いていなきゃいけないという強迫観念に駆られた時もあったんです。でも、1、2年経つと、やっぱり集中力が落ちた時間帯に書いたものは読み返したら本当に駄目だなっていうのが分かってきたんです。よくよく考えたら、会社員だった時も午後になると眠気との闘いだったので、結局変わらないんだなって。ただ、今は会社員の時と違って事情が許せば自分で時間をコントロールできるので、集中力が途切れないようにお昼ご飯の時間を後ろにずらしたりもしますね。
――デビュー後の読書生活はいかがですか。
伏尾:『ストーンサークルの殺人』から始まるイギリスのシリーズを面白く読んだりはしているんですけれど、最近は100%趣味の読書ができなくなってしまって。やっぱり自分だったらここでこういう展開にはしないなとか、私だったらこういうキャラクターにするな、みたいなことを考えてしまいます。
デンマークの『特捜班Q』シリーズなど北欧の警察小説を読み漁っていた時期もあるんですけれど、それも好みが固まってから読み始めているので、読んで何か新しい発見をしたという部分はあまりないというか。ただ、北欧の作品は、何か事件が起こって捜査員たちが追いかけていくと、真犯人と一緒に隠された歴史の暗部も明るみに出る、というパターンが結構多いんです。そこまで北欧の歴史に詳しくないので、「そういう歴史があったんだな」という気づきはありますね。それと、『特捜班Q』のシリーズでは主人公の相棒がシリアから亡命してきた人なんですが、シリーズ序盤は過去が謎に包まれているんですね。主人公との掛け合いは軽いタッチで描かれているんですけれど、その根底には過去の暗い秘密があるという描き方がうまいなと思うんですが、日本では主人公サイドでこういう国際問題と絡めたお話は難しいんですよね。今の日本の警察の場合は、日本国籍を持っていて、基本的に本人だけでなく親族にも犯罪歴がない清廉潔白な人しか警察官になれない。言い方が適切ではないんですけれど、国際問題や歴史と絡めて過去に何か暗い秘密がある人を警察小説の主人公にできるとバリエーションが広がるな、と思うことはあります。
――今後の刊行等のご予定はいかがですか。
伏尾:8月に光文社から『誰何(すいか)』という警察小説を刊行する予定です。10月には小学館から新刊を出します。それと、双葉社さんで連載している『夜が眠りにつくまえに』があと数回で連載が終わって、単行本化に向けてゲラ作業が始まるんですけれど、刊行は来年になると思います。
――沢村の第三弾も首を長くしてお待ちしております。大好きなので。
伏尾:ありがとうございます。幸いなことに『百年の時効』を出してから、本当にいろんな出版社からお声がけいただいて、先のほうまで予定が詰まっていて...。なのでまだ具体的なことは決まっていませんが、私も沢村は大事にしていきたいシリーズだと思っています。
(了)


