作家の読書道 第289回:野宮有さん
2019年に電撃小説大賞からライトノベルでデビュー、さらに2025年に『殺し屋の営業術』で江戸川乱歩賞受賞し 、同作が本屋大賞にもノミネートされた野宮有さん。中学生の時から小説を書き始めたという野宮さんが影響を受けた作家、作品は? 「小説を書くために小説を読んでいた」という野宮さんの読書や執筆の変遷をおうかがいしました。
その3「自分の作風を決めたあの作品」 (3/9)
――高校に進学して、書店のある町に通うようになったのですか。
野宮:ようやく生活圏内に書店が現れたんですよね。剣道部から逃げるためにバドミントン部に入ったんですけれど、そこに同級生で小説を読む人がいて。今はアニメのプロデューサーをやっている友達なんですけれど、西尾維新さんの「戯言シリーズ」とかを貸してくれたんですよ。で、どうやらライトノベルというものがあるらしいと知って。成田良悟さんの『バッカーノ!』や、桜庭一樹さんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を読んで、「うわー面白い!」となりました。
漫画も、それまでは「ジャンプ」しか読んでいなかったんですけれど、部活終わりにみんなで行くラーメン屋に漫画がいっぱいあったんです。一人ずつ替え玉をして時間を稼ぎながら漫画を読んで、そこで『GANTZ』、『エア・ギア』、『寄生獣』、『ピンポン』、『蟲師』、『おおきく振りかぶって』とか、もういっぱい読みました。青年漫画というものがあるんだ、というのもそこで知りました。『GANTZ』とか『ピンポン』なんかは、ものすごくはまった記憶があります。
田舎って、ホームセンターとかスーパーとかスポーツ店が集まった、駐車場が広い複合施設があるじゃないですか。そこにゲーセンもあったんです。放課後のルーティンはラーメン屋で限界まで時間を稼いで漫画を読んで、ゲーセンに行って、ゲーセンの下の書店に寄って、乙一さんや伊坂幸太郎さんの本を買って帰りながら読むことでした。電車通学も片道1時間くらいかかったんです。たぶん一般小説ではじめて読んだのが乙一さんです。短篇集だから読みやすかったんだと思うんですけれど。
――なにを読まれたのですか。
野宮:『失はれる物語』とか、『ZOO』とか...。たぶんいちばん影響を受けたのは『GOTH』なんですよね。ミステリ部分ももちろんすごいんですけれど、ラストの、ヒロインが人にぶつかりながら改札まで走っていくシーンが、描写も含めて「あ、美しすぎるわ」みたいな。「こういうのをやりたいな」と思い、自分の携帯小説に活かそうとしました。
伊坂さんもだいぶ読みました。『オーデュボンの祈り』とか『ラッシュライフ』とか『陽気なギャングが地球を回す』とか、挙げるときりがないんですけれど、当時いちばん好きだったのは『重力ピエロ』。そのなかの一文の、「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」という台詞が印象に残りました。今でも怒られそうになると笑って乗り切れないかなって思ってしまうので、実生活に影響がありました(笑)。
そうやって実際のプロの本をちゃんと読み始めると、自分の携帯小説も上手くなっていくんですよね。そのあたりから、自分もプロになれるかもと思い始めました。
――バドミントン部を続けながら、携帯小説も書いていたんですね。
野宮:朝5時半に起きないと間に合わないくらい学校から遠いところに住んでいたので、通学の時間がとにかく長かったんです。だから携帯小説を書く時間はたくさんありました。
社会人になってから電撃文庫からデビューするんですけれど、その応募作も高3の時に書き始めたんですよ。第1章を高校3年生の時に書き終えていて、このペースだと19歳でデビューできるな、と思っていました。それが、なぜかそこから6年かかってしまうという。
――推薦で大学が決まったから、高校3年生の時に時間があったそうですね。
野宮:そうです。3年生の時はみんな受験勉強しているので、推薦が決まった自分だけ暇で、学校の図書室に行って本を5冊くらい借りて家に帰るという生活を送っていました。そこで東山彰良さんの『逃亡作法』に出合ったんです。クライムノベルというジャンルを初めて読んで、なんかもう文章とか台詞が格好よすぎる、と思って。アメリカンジョークがいっぱい入っている作品なんです。刑務所から大量に囚人が脱走するけれど、脱獄すれば眼球が飛び出るチップが埋め込まれたままなんですよね。もう刺激的すぎて、「これだ!」と思いました。それこそ自分のデビュー作もクライムノベルなんですけれど、『逃亡作法』の衝撃をもとに、「自分もこっちでやろう」と決めて、デビュー作となるものを書き始めました。
――電撃小説大賞で選考委員奨励賞を受賞したデビュー作『マッド・バレット・アンダーグラウンド』は犯罪街イレッダが舞台。悪魔の異能力者「銀使い」であり、金額次第で警察からも犯罪組織からも仕事を請け負うラルフと相棒のリザが、犯罪組織から一人の少女をとらえろとの依頼を受ける。最初は簡単な仕事に思えたが...という話です。高校生の時に考えた設定や展開は6年間で変わらなかったのですか。
野宮:もちろん微調整はしましたが、大筋のプロットは高校3年生の時に決めたもののままです。だから、本当にその時に書き上げていたら19歳でデビューできた可能性はあるんですよね。
――東山さんの文体に惹かれたとのことですが、すんなり書けたのでしょうか。
野宮:東山さんに影響を受けて一回ハードボイルド調の文体で書いてみたら、なんかうまくいったんですよ。それで、向いているなと思って。
それまで、書いている時、地の文がだるいなってずっと思っていたんですよ。プロが書く地の文章はこんなに面白いのに、自分が書く時はなんで面白くないんだろうって。そういう時にクライムノベルを読んでみたら、とにかく地の文が格好いいし、色気がある。それを真似てみたら、地の文を書くのが楽しいと思えるようになりました。やっぱり地の文をいかにおしゃれに書くかみたいなところは、結構クライムノベルの美学としてあるのかなと思うんですけれど、それが自分にとっては面白かったんです。
――大学は推薦で長崎大学に行かれたそうですね。学部はどこだったのですか。
野宮:経済学部です。当時は情報もなかったし、世界や人生に対する解像度が低かったんですよ。友達や親戚でも大学に行っている人が少なくて、なにも分からなくて、学部も大きな理由があって選んだわけではないです。
小中まではなまじ勉強せずに学年1位だったんです。でも10人くらいの中の1位です。それが高校でひとクラス40人とかになると、普通に落ちこぼれるんです。勉強する習慣もなく、部活して、部室でモンハンして、ラーメン屋に行ってゲーセン行って、本を読んで...。成績はあっという間に落ちて、高2で成績順にクラスが分かれた時、めっちゃ下のクラスに入って。なんかもう受験勉強してもいい大学に行ける気がしなくて、推薦で行きたいと思いました。人生で影響を受けた本でいうとトップクラスになるんですけれど、高3で部活を引退してから『ドラゴン桜』を読んだおかげで、めちゃくちゃ成績が上がったんです。塾には行っていなかったんですけれど、もう、とんでもなく上がりました。
――へえー。勉強方法を真似したということですか。
野宮:真似しました。コツがいっぱい書いてあるんですよね。今の受験に適用できるか分からないんですけれど、たとえば国語や英語の四択問題で選択肢に「絶対」といった断定調のものがあったら、それは外していい、とか。もちろんちゃんとした理解の仕方も書いてあって、それを読んで成績が上がって、国立大の推薦を取ることができました。

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