作家の読書道 第289回:野宮有さん
2019年に電撃小説大賞からライトノベルでデビュー、さらに2025年に『殺し屋の営業術』で江戸川乱歩賞受賞し 、同作が本屋大賞にもノミネートされた野宮有さん。中学生の時から小説を書き始めたという野宮さんが影響を受けた作家、作品は? 「小説を書くために小説を読んでいた」という野宮さんの読書や執筆の変遷をおうかがいしました。
その6「同時代作家たちからの刺激」 (6/9)

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- 『恐怖小説キリカ (講談社文庫)』
- 澤村伊智
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――デビューしてからお仕事との両立はいかがでしたか。
野宮:そもそも会社が激務だったんです。毎日11時まで仕事して、土日も出勤で、帰ってから2時まで原稿を書いていました。当時、寝ていないし締切もあるしで、ずっとイライラしていました。それで上司に意見するようになったりして、だいぶ武闘派の性格になっちゃいました。まわりに合わせて野球もやっていないのに将来の夢に「野球選手」って書くような子供だったのに。人格が変わりましたが、まあ、いい方に変わったとは思います。物怖じしなくなったので。
その頃、あまりに忙しくて家で5回くらい金縛りにあったんです。ちょっと怪しい家ではあったんですけれど、これは心霊現象じゃなくて、疲れすぎているからだと思いました。それに、作家でやっていくとなったら東京に行きたいということもあり、会社に「辞めます」と言ったら、上司が「週三勤務でどうかな」って引き留めてくれたんですよ。しかも、東京勤務でいいよ、って。いい会社なんです。ちょうど働き方改革の流れもあって、会社がホワイトになっていたこともあります。それで東京に来て、週三会社で働きながら作家を続けることになりました。
――生活にどんな変化がありましたか。
野宮:慌てて本を読み始めました。ライトノベル作家が書くライトノベルを参考のために読んでいったんですけれど、どうやら自分の書くものはライトノベルっぽくないぞと気づきました。で、ライトノベルを読むよりは一般文芸を読んだほうが逆に差別化になると思い、中村文則さんとかをまた掘り始めたり、『テスカトリポカ』の佐藤究さんとか、呉勝浩さんとかを読んだりしていました。
海外文学もちゃんと読むようになりました。テッド・チャンがすごく好きでした。『息吹』とか。海外ミステリでは『そしてミランダを殺す』のピーター・スワンソンとかが好きでした。あとは話題になった作品ですね。『三体』とか、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とか、『カササギ殺人事件』とか。
新人賞を獲ってデビューした人の小説もいっぱい読んでいました。澤村伊智さんの『恐怖小説キリカ』がすごく好きでしたね。『ぼぎわんが、来る』が売れたちょっと後に、澤村伊智を主人公とした小説を書くなんて度胸がすごいな、って。自分と同じくらいの時期にデビューした人の作品を読むことは多いです。やっぱり悔しくなりますが、それでも逃げないぞと決めて読むんです。岩井圭也さんも僕と同じくらいにデビューして活躍されているので、悔しいなと思いながら読みました(笑)。荻堂顕さんとかもそうですね。
同じレーベルからデビューして飛躍している人も読みます。斜線堂有紀さんは、電撃小説賞のメディアワークス文庫賞で自分より2年前にデビューされている。『私が大好きな小説家を殺すまで』を読んで、こういう人が文芸のほうに行くのかと思いました。考えてみたら、斜線堂さんの存在が大きいかも。ライトノベルでデビューして、文芸のほうに行けるんだ、みたいな。もちろん、桜庭一樹さんや冲方丁さんもそうですし、そういう人はいっぱいいるんですけれど、斜線堂さんは近い時期に同じ賞でデビューした人なので、そういうルートもあるんだと意識しました。
――その頃にはライトノベル以外にもいろいろ書きたいという気持ちが強くなっていたのですか。
野宮:そうです。1作目がデビュー作で、2作目はライト文芸みたいなジャンルでミステリを書いたんですよ。ありがたいことにそれが重版したんです。重版したら一般文芸から声がかかるかなと思っていたら、かからない。どうやら普段文庫で書いている人と単行本で書いている人では立場が違うらしいぞということに気付きました。
――ちなみに電撃文庫がライトノベルで、メディアワークス文庫がライト文芸ということですか。ライトノベルとライト文芸の違いって明確になにかありますか。
野宮:「レーベルの違い」くらいだと思います。同じレーベルでも本当に作品によって違います。ライトノベルでも桜庭さんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』みたいな「ほぼ純文学じゃん」という作品もあるし、ライト文芸だけど本格ミステリもありますし。当時は電撃文庫の編集者さんがメディアワークス文庫を担当したりしてたので、あまり垣根は感じませんでした。作品を書いてからどっちから出すか決めることもありました。
――野宮さんの2作目『愛に殺された僕たちは』はメディアワークス文庫から出されていますよね、これは過酷な家庭環境に育った少年少女の話。次に出されたのが電撃文庫の『嘘と詐欺と異能学園』のシリーズ一作目。これは天才詐欺師の少年と、天才的な演技力を持つ少女が、異能力を持たないのに異能力者のふりをして周囲を騙していく話ですね。
野宮:しばらくライトノベルとライト文芸を交互に出していました。でも、メディアワークスで次に出した『ミステリ作家拝島礼一に捧げる模倣殺人』は謎解きのミステリでした。そうやっていくうちに自分が書くものも、だんだん一般文芸寄りになっていった感じです。
――2023年には『魔法少女と麻薬戦争』で少年ジャンププ+×note原作大賞を受賞して、漫画原作者としてもデビューされていますね。
野宮:そうですね。漫画原作もやりたいなと思っていたんですが、やっぱり一向に声がかからなくて。たまたま正月の帰省中にジャンプ+がnoteさんと共催で漫画原作を募集していると知り、締切まで2週間くらいだったので慌てて書き上げて応募しました。それが本当にありがたいことに受賞しました。
――『魔法少女と麻薬戦争』は、どうしてこのふたつを掛け合わせようと思ったのですか。
野宮:理由はふたつあるんです。ひとつは、自分はヒップホップが好きなんですけれど、ラッパーが「ラブ&ピース」と言っているのに覚醒剤とかで捕まったりしますよね。その覚醒剤の密売の背景には全然「ラブ&ピース」じゃない出来事が起きていて、殺される人もいる。なのに、なに「ラブ&ピース」とか言ってんだ、みたいな気持ちがありました。それで、薬物ダメ絶対、をテーマに書こうと思っていました。
もうひとつは、めちゃくちゃ持ち上げられた芸能人とか何かを達成してたたえられた有名人が、なにかやったら一気に過酷に叩かれる側に回ることが多いですよね。何かに貢献したのに、それゆえに過酷な状況に陥っている。そこから、世界を救った救世主が、何の見返りも得られずに苦しい状況に追い込まれる設定を思いつきました。
それを掛け合わせました。世界を救った魔法少女たちが、何のアフターフォローもされず、世界から認識されなくなって、その復讐で麻薬を広めるという話になりました。












