第289回:野宮有さん

作家の読書道 第289回:野宮有さん

2019年に電撃小説大賞からライトノベルでデビュー、さらに2025年に『殺し屋の営業術』で江戸川乱歩賞受賞し 、同作が本屋大賞にもノミネートされた野宮有さん。中学生の時から小説を書き始めたという野宮さんが影響を受けた作家、作品は? 「小説を書くために小説を読んでいた」という野宮さんの読書や執筆の変遷をおうかがいしました。

その4「大学生時代に触れた小説や映画」 (4/9)

  • ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)
  • 『ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)』
    春樹, 村上
    新潮社
    880円(税込)
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  • ワイルド・サイドを歩け (光文社文庫)
  • 『ワイルド・サイドを歩け (光文社文庫)』
    東山 彰良
    光文社
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  • ブラックライダー(上) (新潮文庫)
  • 『ブラックライダー(上) (新潮文庫)』
    東山 彰良
    新潮社
    737円(税込)
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  • 罪の終わり(新潮文庫)
  • 『罪の終わり(新潮文庫)』
    東山彰良
    新潮社
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  • ありきたりの狂気の物語 (ちくま文庫 ふ 50-3)
  • 『ありきたりの狂気の物語 (ちくま文庫 ふ 50-3)』
    チャールズ・ブコウスキー,青野 聰
    筑摩書房
    990円(税込)
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  • ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)
  • 『ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)』
    レイモンド・チャンドラー,村上 春樹
    早川書房
    1,153円(税込)
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  • ホワイト・ジャズ (文春文庫)
  • 『ホワイト・ジャズ (文春文庫)』
    ジェイムズ・エルロイ,佐々田雅子
    文藝春秋
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  • マルドゥック・スクランブル The 1st Compression 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-8)
  • 『マルドゥック・スクランブル The 1st Compression 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-8)』
    冲方 丁
    早川書房
    770円(税込)
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――そして長崎で一人暮らしが始まったわけですね。デビュー作を仕上げるのに6年かかったということは、大学生時代、小説は書いていなかったのですか。

野宮:長篇は書いていないけれど、掌編はたくさん書いていました。モバゲーがエブリスタというサイトに代わって、そこでテーマに沿った掌編を応募すると大賞で賞金3万円がもらえるコンテストが始まったんです。とにかくお金がなかったので、そのために掌編を書いていました。今、自分は作品ごとに文体を変えたりしていろんなジャンルが書けるんですけれど、たぶんそれは、そのコンテストで培われたんだと思います。
当時は叙述トリックにはまっていて、毎回なにかしら叙述トリックを入れていました。コンテストでは大賞ではなかったけれど、1万円もらった記憶があります。
その間、長篇も先に進めればいいものを、ずっと高校生の時に書いた第一章の手直しをやっていたんですよ。これは長篇が書けない人の「あるある」ですね。今はもう、とにかく先に進めていったん最後まで書くということを憶えました。

――なにかサークルは入ったのですか。

野宮:まず軽音部に入って、それからバドミントン部にも入りました。軽音部は半年間でやめてしまいました。
軽音の部室に8年くらい住んでいる先輩がいたんですよ。最初、ゼミの友達と一緒に軽音サークルが集まる部室みたいなところに行ったら、明らかに大学生の見た目ではない人が麻雀をやっていて、「あ、怖い」となって。違うサークルに行ったら雰囲気がよくて歓迎ムードだったので入ったら、実は「怖い」と思った人がそのサークルの人だったんです。まあ、それはともかく、結構厳しいというか練習がたくさんあるサークルで、バドミントン部と重なるので参加できなかったりするうちに、初心者だったこともあって全然ついていけなくなって、半年でやめました。
バドミントンは、運動はしたいけれど体育会ではないところがいいなと思って、緩いところに入りました。でも、緩く練習しているのにそこそこ上手くなっていくんですよ。好きこそものの上手なれって本当だなと思いました。絶対、剣道のほうが練習はちゃんとやっていたのに。

――読書のほうはいかがでしたか。

野宮:恥ずかしながらあんまり読んではいなくて。とはいえ、名作みたいなものは読んでいました。村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』とか。高校時代に影響を受けた東山彰良さんの本もちょっと掘ってみようかなと思い、『ワイルド・サイドを歩け』とかいろいろ読みました。そのなかで、『ブラックライダー』の最初の一文に衝撃を受けました。〈フィッシュ葬儀社の三男坊が人を殺してその肉を食べたこと自体は、まあ、目くじらを立てるほどのことでもない〉。たった一文でこの小説の退廃的な世界観を説明していて、先が読みたくなりました。今でも、小説は最初の一文が大事だなと思っています。読んだのは卒業した後かもしれないですけれど、『ブラックライダー』の前日譚の『罪の終わり』という本が、東山さん作品のなかでいちばん好きですね。エンタメとして面白すぎます。
東山さんのエッセイも読みましたが、海外文学もたくさん読まれているんですよね。それで東山さんが薦めているものを読もうと思い、ブコウスキーの『ありきたりの狂気の物語』、チャンドラーの『ロング・グッドバイ』、エルロイの『ホワイト・ジャズ』なんかを読みました。その頃にはもう自分はハードボイルドで行くんだと思っていたので、ハードボイルド系のミステリをいろいろ読んでいた気がします。
「これは読んでおかなきゃな」という作品も読んでいました。冲方丁さんの『マルドゥック・スクランブル』、伊藤計劃さんの『虐殺器官』や『ハーモニー』、平山夢明さんの『独白するユニバーサル横メルカトル』、高野和明さんの『ジェノサイド』や『13階段』...。
それと、中村文則さんの『掏摸〈スリ〉』がめちゃくちゃ面白かったんですよ。中村さんの『掏摸』とか『王国』とかに出てくる木崎というキャラクターは、すべてを取り仕切っているフィクサーみたいな存在で、いろんな小説のなかでいちばん好きなキャラクターかもしれません。すべてがこいつの手のひらの上じゃん、みたいな人です。それと、中村さんの『カード師』という小説のポーカーのシーンは、全小説のギャンブルシーンでいちばん好きだと言えますね。

――どうしてでしょう。

野宮:ギャンブルの本質が描かれているというか。負けたらすべてを失うっていう、漫画の『カイジ』だったらぐにゃっとなるシーンがあるじゃないですか。あの感じの描き方が本当にもう、これ以上読みたくないくらい容赦なさすぎるというか。別に直接的にグロい描写があるわけじゃないんですよ。ただ別室に連れていかれるだけなんですけれど、緊迫感がえげつない。あのシーンは本当にすごいと思います。今後もし自分にギャンブルものを書く機会があるとしたら、あれはベンチマークになりそうです。そういった純文学を読み始めたのもたぶん大学生の時からで、いろいろ読みました。これは卒業してからだったかもしれませんが、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』とか。
朝井リョウさんの『何者』も大学生の時に読みました。就職活動が終わってから読んだんですよ。就活の前でなくて本当によかったです(笑)。

――野宮さんは映画もたくさんご覧になっていますよね。

野宮:大学に入ってからTSUTAYAでバイトを始めたんです。TSUTAYAには「マスターバック」という、店員しか知らない用語があるんです。DVDを棚に戻す作業のことで、TSUTAYAの店員さんに「自分はマスターバックをやってました」と言うと喜ばれるんですけれど。大量のDVDを抱えて棚に戻していると、「こんな映画もあるんだ」と、いろいろ知ることができるんです。で、気になった映画を観ていました。最初はクライム映画をよく観ていました。タランティーノは「レザボア・ドッグス」や「パルプ・フィクション」に始まり、「デス・プルーフinグラインドハウス」とか...。脚本だけ担当した「フロム・ダスク・ティル・ドーン」や「トゥルー・ロマンス」、ゲスト監督だった「シン・シティ」なども掘っていきました。マーティン・スコセッシの「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を観て面白いと思ったら、スコセッシ作品を掘って「グッド・フェローズ」や「シャッターアイランド」とかも観て、「ファイト・クラブ」が面白いとなったらデヴィッド・フィンチャーを掘っていって、「ゴーン・ガール」とかを観て、こういう描き方もあるのかと思ったりして。クリストファー・ノーランも観ましたね。
だんだん犯罪映画以外も観るようになりました。マーク・ウェブの「(500)日のサマー」なんかはめちゃくちゃ好きでした。あれはもう脳を焼かれている感じでした。

野宮:あれは、おしゃれ映画なんですけれど、完全に男性向けだと思います。うだつの上がらない感じの大学生くらいの男が観ると、めちゃくちゃ響きます。カップルで観に行ったら評価が分かれるだろうなと思います。
当時「きのこ帝国」とかにはまって、ちょっとサブカルな方向にいっていたんですよ。それで映画も「(500)日のサマー」とか「ブルー・バレンタイン」とかを観て。
邦画も掘ろうとなって、「ジョゼと虎と魚たち」とか。「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」や「桐島、部活やめるってよ」を観て、吉田大八監督ってすごい人だなと思いました。原作小説から結構変えるんですけれど、原作も映画もどちらも面白い、となる。他には白石和彌さんとか、吉田恵輔さんとか、監督や脚本家で追うようになっていきました。
ラジオにはまりだしのもこの頃で、ラジオを題材にした佐藤多佳子さんの『明るい夜に出かけて』がすごく響いた記憶があります。
学生時代は無限に時間があったから、ずっと小説を読んだり、ラジオを聴いたり、「FIFA」というサッカーのゲームをやったりして、時間が来たらバイトに行く、みたいな生活をしていました。長篇の続きを書けばいいのに(苦笑)。

――ラジオはどんな番組が好きだったのですか。

野宮:お笑い芸人さんのラジオをよく聞いていました。アルコ&ピースさんの「オールナイトニッポン」を聞いたのが最初です。あの番組ってお二人のトークも面白いんですけれど、リスナーと一緒にカオスを作っていくところがすごくて。テーマを設定して、それに沿って物語を無理やり成立させるために、リスナーさんがどんどんネタを投稿するんです。たとえば、ミュージシャン同士が対決するという架空の設定を作って、このアーティストが強いとか、途中でこのアーティストが乱入してきたとかいうことをリスナーさんが送ってきて、物語がどんどん展開して、どんどん収拾がつかなくなって、「どうするこれ?」みたいになった時に、リスナーさんがぱっと美しいオチを送ってくる。そのライブ感がすごかった。もう伝説の番組みたいになっていますが、本当にものすごく面白くて、そこからいろんな芸人さんのラジオを聞くようになりました。

――ご自身は投稿されなかったのですか。

野宮:やってないです。いやもう本当に、その時投稿していた人って、今放送作家をやっている方がたくさんいるんです。そういう人たちが面白すぎて、全然ついていける気がしませんでした。

  • 虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫 JA イ 7-6)
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    早川書房
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    中村 文則
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  • 『コンビニ人間 (文春文庫 む 16-1)』
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  • 『何者』
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  • 明るい夜に出かけて (新潮文庫)
  • 『明るい夜に出かけて (新潮文庫)』
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