作家の読書道 第289回:野宮有さん
2019年に電撃小説大賞からライトノベルでデビュー、さらに2025年に『殺し屋の営業術』で江戸川乱歩賞受賞し 、同作が本屋大賞にもノミネートされた野宮有さん。中学生の時から小説を書き始めたという野宮さんが影響を受けた作家、作品は? 「小説を書くために小説を読んでいた」という野宮さんの読書や執筆の変遷をおうかがいしました。
その8「「うわあ」となったあの作品」 (8/9)
――その後の読書生活はいかがですか。前に、好きな作家に貴志祐介さんのお名前を挙げていましたが、何を読まれたのですか。
野宮:最初が『悪の教典』で、そこから『天使の囀り』などを読みました。貴志さんは自分の目指している道のはるか先にいる人というイメージがあります。予想もつかない展開のエンタメを書かれる方として。
呉勝浩さんもそうですよね。呉さんは『爆弾』も好きだし、『スワン』とかも好きだし...。『スワン』はショッピングモールでの無差別殺人も描かれますけれど、残酷描写そのものよりも、台詞の感覚が好きなんですよ。それと、主人公に対する容赦のなさも。主人公が過酷な環境に置かれて、じゃあそこからどうする、というような作品が好きです。新作の『アトミック・ブレイバー』は格闘シーンの細かい駆け引きとかが面白かったですね。
あ、人生でいちばん「うわあ」となったのはあれかも。山内マリコさんの『ここは退屈迎えに来て』。
――へええ。地方都市のさまざまな人間模様・人生模様が描かれる作品集ですよね。
野宮:やっぱり自分も田舎出身なので。辻村深月さんの『傲慢と善良』もそうですけれど、ああいうのはダメージが強すぎます。そのなかでもいちばん「あーっ」となったのが『ここは退屈迎えに来て』かも。食らいまくりました。でも、自分の地元はあそこまで都会じゃないです。
――ところで、コンゲームに関しては、影響を受けた選考作品はありますか。
野宮:ギャンブル漫画はすごく好きです。『嘘喰い』とか大好きですし、『カイジ』とか。『ライアーゲーム』はドラマも観ていました。コンゲームとは銘打っていないけれど、垣根涼介さんの『ヒートアイランド』もその要素があると思うし、最近読んだんですけれど柳広司さんの『ジョーカー・ゲーム』も、ミステリだけれど相手を騙すという要素がありますよね。
――最近、読む本はどうやって選んでいるんですか。
野宮:人から薦められた本は読みますね。作家の飲み会で「これ面白かった」と聞いたものは読もうと思うし。新人賞や文学賞を受賞したものもチェックしてます。それと、SNSの裏アカで、いろんな本の感想を挙げている人で「この人は信頼できる」と思う人を何人かフォローしているんですけれど、そうするとタイムラインに勝手にリコメンドされて、いろんな本の情報が流れてくるんです。そのなかから気になったものを読んだりしています。いま気になっているのが、今度刊行されるqntmさんの『反ミーム部門は存在しない』。なんか面白そうだなと思って。
衝動買いもあります。今日は予算1万円前後と決めて書店に行って、全然オーバーすることもある。まだ読んでいない本が家に100冊くらいあります。
学生時代は特定の作家を掘ることをやっていましたけれど、今はもういろんな作家、いろんなジャンルを読むようにしていますね。むしろ最近は犯罪小説を読んでいないかも。あまり影響を受けるとよくないなというのと、やっぱりいろんなジャンルを読みたいというのがあって。
最近は同世代くらいの作家を読むことが増えています。森バジル君もそうですし。ちょっと下の世代になりますけれど、『救われてんじゃねえよ』の上村裕香さんは文体が好きです。
あとは、これまで読んでいなかった名作。さきほど言った柳広司さんの『ジョーカー・ゲーム』は、俺はこんな面白いものを読み逃していたのか、と思いました。月村了衛さんの『機龍警察』もそうですね。西尾潤さんの『愚か者の身分』もすごく面白かった。
純文学では、金原ひとみさんの『YABUNONAKA -ヤブノナカ-』が本当に面白かったんですよ。綿矢りささんの『勝手にふるえてろ』は小説も映画も好きです。安堂ホセさんの『DTOPIA』も、あまり見たことのない感じの文章で好きでした。
――さきほど作家の飲み会、とおっしゃいましたが、結構あるんですか。
野宮:たまにあります。そのために東京に来たんです。飲み会に誘われたくて(笑)。
――作家同士で話す機会といえば、森バジルさんと「密室通信」というポッドキャストを始められたんですよね。
野宮:自分もポッドキャストはうっすらやりたい気持ちがあったんです。一人でやる気はなくて、誰かが誘ってくれたらやろうかなと思っていたら、たまたま森バジル君が誘ってくれたんです。初対面の時に(笑)。
――お互いのノリが合うかまだよく分からない段階でよく決めましたね。
野宮:いやマジで収録した時点までは不安でした。森君はいい人なのでそこが不安なのではなくて、自分の話が人に楽しく聞いてもらえるレベルのものかが不安で。収録でも普通にただ喋っていただけだったんですけれど。編集したものを聞いた時に、「あ、大丈夫かも」と思いました。
――毎回すごく面白いですよ。ところで今は、会社は辞められたのですか。
野宮:今年の3月から専業になりました。
――では、最近の1日のルーティンは。執筆時間などは決まっていますか。
野宮:小川哲さんが、人間は5時間しか集中できない、みたいな話をされていたんですよ。それを踏まえて理想の話をしますね。8時には机に向かい、5時間後の1時まで集中して書きます。午後からは休むなり、調子がよかったら続けるなりする。それが理想ですが、だらだら夜までやる時もあります。1日にだいたい何ページ書くかはある程度決めているんですけれど。最近はもうサッカーのワールドカップのせいで全然できていないです。ワールドカップが終わったら心を入れ替えます。

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