作家の読書道 第289回:野宮有さん
2019年に電撃小説大賞からライトノベルでデビュー、さらに2025年に『殺し屋の営業術』で江戸川乱歩賞受賞し 、同作が本屋大賞にもノミネートされた野宮有さん。中学生の時から小説を書き始めたという野宮さんが影響を受けた作家、作品は? 「小説を書くために小説を読んでいた」という野宮さんの読書や執筆の変遷をおうかがいしました。
その9「新作『殺し屋の出世術』と今後について」 (9/9)

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――『殺し屋の営業術』は今年の本屋大賞にもノミネートされて話題を集めました。そして待望の続篇、『殺し屋の出世術』が7月29日に刊行されますね。
野宮:『殺し屋の営業術』が刊行されてちょっとしてから「続篇書きませんか」と言っていただいたんです。今回「出世術」にしたのは、どういう状況になったら鳥井がいちばんピンチかと考えてのことです。第一作でも書いているんですけれど、鳥井は社内政治や社内営業が苦手なんですよ。どの会社に入っても営業成績1位になるけれど、次第に社内で疎まれて、自ら社を去っていくというのを繰り返してきた。じゃあどうしても出世しないと終わり、みたいな状況になったら鳥井にとってピンチじゃん、と思いました。
――裏社会で出世競争ってどういう状況かと思ったら、前作で入った殺人請負会社〈極東コンサルティング〉の社長の座を争わなくてはならなくなるんですね。しかもライバルは指定暴力団浦乃組の幹部、巣ヶ谷のもとで裏ビジネスを展開している鷹見という男。つまり鳥井にとって勝算は限りなく低い。
野宮:出世争いも、裏社会ではより理不尽な状況になるだろうと思いました。それこそ敗れた奴はもう死ぬしかない。なのにもう事前に根回しされていて、相手が勝つことは決まっている...とシミュレーションして展開を考えました。
――鳥井は前作である意味「覚醒」しているから、今回は彼の成長というか変化を描くのは難しいですよね。
野宮:毎回シリーズを書くたびに、第1巻で主人公が成長しちゃっているのにどうするんだ、と思います。今回も、もうあんまり鳥井の変化を書く必要はないなと思って。なので鳥井が成長するというよりは、鳥井によって変化させられる人々を描いたほうが面白くなるかな、と。
――複数の視点人物がいますが、そのなかの新しいキャラクター、ライバルとなる鷹見の側近、翼という屈強な少女が強烈な印象を残します。
野宮:1作目でも、第三者の視点を入れることによって、鳥井のいびつさが強調されると考えていました。今回も別の人物の視点から鳥井を書くつもりでいたんですけれど、じゃあ誰の視点で書いたら面白いかと思った時に、敵側から書いたほうが面白い、と。それもライバルである鷹見本人ではなく、鷹見の側近にすれば、鳥井だけでなく鷹見の得体のしれなさも演出できると思いました。
――ネタバレになりかねないので具体的には言いませんが、レギュラーメンバーも意外な一面を見せますね。あの設定は前から考えてあったんですか。
野宮:前作では考えていなかったんですけれど、先輩作家が「もし続篇があるなら、他のキャラクターの掘り下げも読みたい」みたいなことをおっしゃってくださったんです。誰がいいかと考えた時に、ああなりました。
だから、今回は怪獣映画みたいなものなんです。鳥井と鷹見はゴジラとキングギドラで、彼らを見ている他の視点人物が主人公なんです。
――今回も楽しく拝読して、気持ちよく騙されました。第三弾もありますよね? 今後のご予定はいかがですか。
野宮:今は「殺し屋」の第三弾に取り掛かっています。三作目まではこのシリーズに集中して、その後いろいろ動く予定ですね。犯罪小説も書くし、ちょっと違うテイストのものも書く予定です。青春小説も書きたいんですよね。いろいろやろうと思っています。
他には、漫画原作の『魔法少女と麻薬戦争』の第3巻が8月4日に、『殺し屋の営業術』のコミックス第1巻が9月9日に発売になります。
(了)



