『完璧な涙』神林長平

●今回の書評担当者●文信堂書店長岡店 實山美穂

"完璧な機械を語る完璧なSF小説である。そして、完璧な神林作品である。"

 解説の巽孝之さんが、この作品について表現されている通りの、完璧なSF小説が今回の本です。

 作者は1953年新潟県生まれ。長岡工業専門学校卒業。1979年第5回ハヤカワ・SFコンテストに佳作入選した「狐と踊れ」が〈SFマガジン〉に掲載されてデビュー。以来、現在まで数々の賞を受賞している多作な作家です。

『完璧な涙』の主人公、本海宏現は17歳の少年です。生まれつき喜怒哀楽、すべての感情を持ちません。彼は社会に適応できず、家を出て警備の職についた砂漠の遺跡発掘現場で、旅賊の女性・魔姫と出会います。しかし、発掘された戦闘機械が数百年の眠りから目覚め、執拗に宏現を追い続けはじめるのです。未来と過去、時空を超えて戦い続ける終わりに、宏現は感情を取り戻せるのでしょうか。

 SF小説をほとんど読まない私にも、読むことができました。〝感情を探す〟ということが私のSF小説への偏見を覆したせいかもしれません。最後は感動しました。SF小説が苦手な人にオススメします。私もそう教えてもらいました。

 学生時代、とあるマンガのあとがきで、その作者が"自分の好きな作品"で、"SFが苦手な人でも読める作品"として『完璧な涙』を紹介していたのです。

 そのマンガを読んでから15年。『完璧な涙』が出てから20年を経て、そのマンガ家さんによる『完璧な涙』のマンガ版が雑誌で連載され、単行本化されました。同じ早川書房から全2巻。マンガ家の名前は、東城和実さんです。

『完璧な涙』を完璧に再現されていて、なおかつ、東城ワールドでした。ファンにとっては嬉しいコラボですが、現在品切れです。

 小説は、ハヤカワ文庫の定番として、書店に常時置かれていることが多いと思います。SFが苦手だけどチャレンジしてみたい、神林作品は未読だけど入門として読んでみようかな、という人は手にとってみてください。

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文信堂書店長岡店 實山美穂
文信堂書店長岡店 實山美穂
長岡生まれの、長岡育ち。大学時代を仙台で過ごす。 主成分は、本・テレビ・猫で構成。おやつを与えて、風通しの良い場所で昼寝させるとよく育ちます。 読書が趣味であることを黙ったまま、2003年文信堂書店にもぐりこみ、2009年より、文芸書・ビジネス書担当に。 二階堂奥歯『八本脚の蝶』(ポプラ社)を布教活動中。