3月11日(火)
本やタウンさんへ打ち合わせに向かおうとしたところ、浜本に呼び止められる。何だか途中まで一緒に行こうと強く誘って来るではないか。こんなことは通常ないわけで、僕は一瞬身を固くする。最近、クビになるような失態はしていないはずだし、『未読王購書日記』も順調に売れている。ならば、危ない話ではなく、何か大事な企画の話があるのだろう。まだ時間に余裕があったので、了承する。
浜本はこの日車で来ていたので、それに乗り込む。しかし助手席のドアを開けたら、チャイルドシートが装着されており、仕方なくタクシーに乗るときのように後部座敷に座った。その瞬間、車内には異様な空気が流れた。社長である浜本が運転し、ヒラである僕が後部座席にどっかり座っているのだ。これで良いのかと思いつつ、さすがにチビの僕でもチャイルドシートに座れない。しばし沈黙のまま車は新宿方面へ向かっていった。
「あのさ、杉江君」
「はい?」
未読王で味をしめているから古本ものの企画か、それとももっと何か思いもしない企画を掘り起こしたのか? いやもしかしたら、ここのところ僕が「忙しい」を連発していたので、部下を入れてくれる話なのかとちょっと期待も膨らむ。しかし浜本から続けて出てきた言葉に僕は耳を疑うことになる。
「ねえ、株の買い方知ってる?」
その後、浜本から一方的に話を聞くことになったのだが、どうも株主優待のプレゼントのなかに子供さんがとても欲しがっているミニカーがあって、それをどうにか手に入れたいようなのだ。しかし買い方どころかそれがいくらなのかもわからない。困った揚げ句、僕に相談したらしい。
確かに、その話は、父と息子の「ちょっといい話」で涙もろい僕には溜まらない話なんだけど、相談する相手を間違っていないか? 何せ僕、前夜、妻に向かって「このままだとオレ、まったく高給取りになれそうにないし、それどころかこの先、普通の暮らしも出来そうにないから資格を取ろうと思っているんだ」と話し、その目当ての資格は「MBA」だと宣言したところ、「えっ、じゃあアメリカに引っ越すの?」と言われ、逆に「なんでアメリカなの?」なんて問い直してしまった人間なのだ。
結局、浜本の目的地である池袋ジュンク堂書店に着くまで僕が発した言葉「あるじゃんかZAIを買えば良いんじゃないですか」であった。