12月2日(火)
中央線を営業していたが、夕方になって荻窪から丸の内線に乗り換えた。それは、会社に戻るためにではなく、どうしても行かなきゃならない書店さんがあったからだ。しかし足取りは昨日以上に重かった。
昨夜遅く営業から戻ると小さなメモが机の上に置かれていた。そこには経理の小林の丁寧な字でこう書かれていた。
「赤坂I書店H店長さんから電話あり。12月4日で閉店することになり、長い間お世話になりました、とのことです。杉江さんと直接お話したかったようなので、折り返しお願いします」
本の雑誌社の取引書店リストには、書店名の隣に☆印がついた書店さんがある。それはかつて『本の雑誌』が直雑誌だった頃、直で仕入れてくれていた書店である。もちろん今は取次流通となり関係ないのだが、代々営業マンはこの☆印がついたお店から追加注文が来たときには、直納するようにと引き継いできた。あの時代の恩を忘れてはいけないという大事な意味だろう。
『本の雑誌』の創刊と同時期にH店長さんが開いたI書店もそんなお店の一軒だった。赤坂の縦にズラズラ並ぶ看板がやたら目につく繁華街のなかの小さな町の書店だったが、店内には多くのお客さんがひしめき活気溢れるお店だった。
あのお店が閉店するだなんて…。
それもこの赤坂はB書店が閉店したばかりだというのに…。
どんなに気が重かろうと、何をどう話して良いのかもわからくても、こういうけじめはしっかり付けないと気が済まない。とにかく「ありがとうございました」と伝えたい。丸の内線がゆっくりと赤坂見附のホームに滑り込む。
思いの外明るいH店長さんは「この先、いくら考えても小さな書店に明るい兆しもないし、これ以上引っ張ると従業員にも迷惑がかかっちゃうし、それでこういう決断をしたんだ」と入り口に貼られた「閉店のお知らせ」を指さした。その表情は、穏やかで、決して何かに憤りを感じているようではなかったけれど「時代」という言葉を何度も呟いた。
赤坂に着く前に寄った書店では、大型出店の話を聞いていた。とあるチェーン書店がこの町に出てくるらしい、既存店の人達は戦々恐々とそんな噂を口にし、対抗策を考えていた。しかし結局、どうすることも出来ないのかも…なんてあきらめの表情もされていた。
ここ何年か、書店軒数は激減している。ただし、全体の坪面積は増えており、それは大型書店の出店、周りの小さな書店の閉店ということを意味しているのだろう。
H店長さんと話し込んでいると、とある書店さんが顔を覗かせた。その書店員さんはかつて出版社に勤めていて頃、このお店に大変世話になったと話していた。
別れ際、僕はその書店員さんに「では、また今度はお店の方で」と声をかけた。
しかし、赤坂I書店さんには「また」がない。