番外編:杉江由次さん

作家の読書道 番外編:杉江由次さん

こよなく本を愛し、書店を愛し、そして浦和レッズを愛する本の雑誌社営業マン、杉江由次氏。ほぼ毎日更新している本サイトの「炎の営業日誌」も、はや8 年。書店めぐりだけではなく、本はもちろんなぜかサッカーについても熱く語るこの営業日誌が、このたび1冊の本になりました。それを記念して「作家の読書道」番外編、杉江由次の登場です。実に意外な読書歴、というよりも人生の変遷が明らかに!

その2 「本と出合って予備校を辞める」 (2/9)

69 sixty nine (文春文庫)
『69 sixty nine (文春文庫)』
村上 龍
文藝春秋
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愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)
『愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)』
村上 龍
講談社
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わしらは怪しい探険隊 (角川文庫)
『わしらは怪しい探険隊 (角川文庫)』
椎名 誠
角川グループパブリッシング
473円(税込)
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日本細末端真実紀行 (角川文庫)
『日本細末端真実紀行 (角川文庫)』
椎名 誠
角川書店
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日本の川を旅する―カヌー単独行 (新潮文庫)
『日本の川を旅する―カヌー単独行 (新潮文庫)』
野田 知佑
新潮社
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学問ノススメ〈挫折編〉 (光文社文庫)
『学問ノススメ〈挫折編〉 (光文社文庫)』
清水 義範
光文社
503円(税込)
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――そんななか、18歳で本を読んだという、その経緯を教えてください。

杉江 : 高校を卒業して浪人して、埼玉の春日部から代々木の代々木ゼミナールに通い始めたんです。国語の成績があがらなくて、親友の下沢って奴に相談したんですよね。そうしたら「お前が本を読んでないからだ」って言われて。それで教えてくれたのが村上龍の『69』『愛と幻想のファシズム』。それまでは、読んでもいないのに本に対して女々しいものというイメージを持っていて。だって教科書に載ってる太宰とかだって悩んでばっかりでしょう。でも、そいつに紹介されて、この2冊を漫画以外の本としてはじめて買って家に帰って読み出したら、もう、あまりに面白くてその日は部屋から出なかった。で、その直後に予備校を辞めちゃった。

――辞めた?

杉江 : あまりに影響を受けてしまって。『69』なんてもう50回くらい読んでいます。あとがきだけでも死ぬほど読み返してる。楽しんで生きていない奴はダメだって書かれてあるから、今でも、楽しくないと思う時はこれを読んでエネルギーをもらっています。とにかくこの時に「本って面白いじゃん!」と完全にノックアウトされて、そこから『コインロッカー・ベイビーズ』や『限りなく透明に近いブルー』、短編集の『走れ!タカハシ』なんかを読んだんですよね。村上さんには、世の中には価値観がいろいろあると教わった気がします。それまでは受験していい大学に入っていい会社に入らなきゃって親にも周りにも言われていて、それ以外の人生なんてないと思っていた。

――それで大学受験を辞めよう、と。

杉江 : 村上龍でガツン、ときたところで、今度は椎名誠を読んだんです。今から考えると笑っちゃうけれど、その頃の僕は単行本というものが世の中にあると知らなくて。文庫で出ている村上龍作品を全部読んでしまって、もう読むものがない、どうしようと思っていたら、たまたま教育テレビでムツゴロウと椎名誠が対談でウンコの話をしていて、それが面白くて。テロップに作家という肩書きが出たので、この人本を出しているんだと思い、椎名さんの本を読み始めたんです。『わしらは怪しい探険隊』『日本細末端真実紀行』...。本を読んではじめて、腹をかかえて笑いました。それも大きかった。椎名さんつながりで沢野ひとし、野田知佑、木村晋介なんかも読んでいて、カヌーの旅を記した『日本の川を旅する』の野田知佑さんにガツンとぶちあたりました。カヌーに乗って旅しなければ、オレの人生は切り開けないと思いましたね。

――で、カヌーを買ったんですか。

杉江 : まずはお金を作らないと。6月くらいに予備校を辞めたわけですが、この夏にはカヌーに乗りたいと兄貴に言ったら、短期で割りのいいバイトを教えてくれたんです。精肉加工業でした。でっかい肉が運ばれてくるのを、挽肉にしたりして。20日くらい働きましたが、もう大変で。冷蔵庫みたいな場所でずっと作業しているので、だんだん暖かいか寒いか訳がわからなくなって。自律神経がおかしくなっちゃったんですよね。でも20日ほど働いたらカヌーを買えるお金はできたんです。

――組立式のものですか。

杉江 : そうです。それで、いつも僕んちにいる仲間を「今の時代はカヌーだよ」と騙し、みんなもカヌーを買って椎名さんの「あやしい探検隊」みたいに出かけていたわけです。

――杉江さんの一声でみんなカヌーを買ったんですか。

杉江 : みんなヒマだったんで、僕が何かいいだすとしょうがないから一緒にやってやろう、というノリだったんじゃないですか。それで車にカヌーを積んで四万十川や長良川や、いろんなところに行って。カヌーに乗ったら道が開けるって思っていたけれど、何も変わらなかったですね(笑)。書店で働き出して結婚して子供できるくらいまで、つまり30歳くらいまでカヌーはずっとやっていました。

――本の影響で、そこまで行動してしまうとは。

杉江 : そういえば、浪人を辞めたくらいに清水義範さんの『学問ノススメ』を読んだんです。一浪の予備校生の話で、3人くらい男の子が出てくる。そのうちの一人が、お父さんが死んじゃって、大学受験を辞めるんです。大学に行ってもやりたいことがないから働きたい、みたいなことを言う。もう涙が止まらなかったですね。僕も予備校を辞める時に親にすごく怒られたし、友達に「お前どうやって生きていくの」って言われたから。僕は村上龍でメッセージ性のある読書、椎名誠で腹をかかえて笑う読書、そして清水義範には共感して泣く読書があるって教わりました。清水さんはほかに『国語入試問題必勝法』とか『青山物語』とか読みましたね。

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