
作家の読書道 番外編:杉江由次さん
こよなく本を愛し、書店を愛し、そして浦和レッズを愛する本の雑誌社営業マン、杉江由次氏。ほぼ毎日更新している本サイトの「炎の営業日誌」も、はや8 年。書店めぐりだけではなく、本はもちろんなぜかサッカーについても熱く語るこの営業日誌が、このたび1冊の本になりました。それを記念して「作家の読書道」番外編、杉江由次の登場です。実に意外な読書歴、というよりも人生の変遷が明らかに!
その5 「炎の営業マン誕生」 (5/9)
- 『OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)』
- 桐野 夏生
- 講談社
- 720円(税込)
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- 『黒い家 (角川ホラー文庫)』
- 貴志 祐介
- 角川書店
- 720円(税込)
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- 『炎立つ 壱 北の埋み火 (講談社文庫)』
- 高橋 克彦
- 講談社
- 700円(税込)
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- 『バッテリー (角川文庫)』
- あさの あつこ
- 角川書店
- 555円(税込)
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――本の雑誌社に転職したのは...。
杉江 : クインテッセンスには3年半ほどいたんですが、ある日曜日、家にいたら妻に呼ばれまして。「本の雑誌社が募集しているよ」って朝日新聞の求人欄を見せられたんです。営業部員の募集が出ていました。僕はそれまで『本の雑誌』も100号記念号くらいしか読んでいなかった。椎名さんはすごく好きだけれど、僕くらいの読書経験では読めなくって。でも面接に行けば椎名さんに会えるかな、という記念受験のつもりで応募したんです。実際、面接してくれたのは目黒さんだったんですけれど。それで、「病気はしたことがないし健康保険証を使ったことがない」と言ったら、受かっちゃった。
――すぐに退職・入社ですか。
杉江 : 2週間で転職しなくちゃいけなかったんです。前の営業の人が体調を崩したとかで、はやく切り替えたい、ということで。それでお茶の水にある、茗渓堂という『本の雑誌』がいっぱいおいてある本屋で慌ててバックナンバーを何号か買って読んだら、ヤバイ! と思った。載っている本をひとつも知らない! と。それで八重洲ブックセンター時代の上司に相談しに言ったんです。「エンタメをもっと読んでおかないとマズイですか」って。そうしたら「別に好きな本を読めばいいんだよ」と言ってくださって。でもいざ入社して営業に行くと、書店員さんも本の雑誌社の人が来たとなると、エンタメのことも知ってる、と思っている。もう開き直って、「今読んでいる面白い本は何ですか」って聞くことにしたんです。ミステリの専門店的な、飯田橋の深夜プラス1の浅沼さんに「ミステリはぜんぜん読んでいないので教えてください」と言って、クリスティーやクィーンといった基本書を言われるかなと思ったら、その頃すごく売れていた桐野夏生さんの『OUT』と貴志祐介さんの『黒い家』を教えてくれて。家に帰って読みはじめて、ああ、自分の人生とは関係ない話を、ただ楽しむという読書があるのか! と思いました。そこからが超乱読期。人がいいと思うものを全部読もう! と思ったわけです。それが25、6歳の頃になります。そうした読書を続けていって、行き着いたのが高橋克彦の『炎立つ』『天を衝く』『火怨』のみちのく三部作と、あさのあつこの『バッテリー』になるのかな。
――杉江さんが大プッシュしてきた本ですね。
杉江 : たしか宮部みゆきさんの『模倣犯』が売れていた時かな、その話を飲み屋でしていたら、椎名さんの友達みたいな人が「高橋さんの『天を衝く』がすごくいいんだ、これは読まないといけない、目黒さんにも読んでほしい」と2時間くらい語っていて。それで目黒さんも僕も読んでみたらすごく面白くて。高橋克彦とあさのあつこは、人に薦められて読んでいく読書の中で、一番面白かった2冊といっていい。
――人からの情報って貴重ですよね。
杉江 : 本屋大賞もその思想なんです、僕の中では。せっかくこんなに面白い本を知っている人たちがいるんだから、どこかでその知識を集められないかなと思って。意外と本ってそういうものなのかも。僕なんか一人で読んでいても情報がなくて行き詰って困っていたから。