番外編:杉江由次さん

作家の読書道 番外編:杉江由次さん

こよなく本を愛し、書店を愛し、そして浦和レッズを愛する本の雑誌社営業マン、杉江由次氏。ほぼ毎日更新している本サイトの「炎の営業日誌」も、はや8 年。書店めぐりだけではなく、本はもちろんなぜかサッカーについても熱く語るこの営業日誌が、このたび1冊の本になりました。それを記念して「作家の読書道」番外編、杉江由次の登場です。実に意外な読書歴、というよりも人生の変遷が明らかに!

その7 「最近のお気に入り作品」 (7/9)

ばかもの
『ばかもの』
絲山 秋子
新潮社
1,404円(税込)
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アカペラ
『アカペラ』
山本 文緒
新潮社
1,512円(税込)
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忘れられた日本人 (岩波文庫)
『忘れられた日本人 (岩波文庫)』
宮本 常一
岩波書店
756円(税込)
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ぼくは猟師になった
『ぼくは猟師になった』
千松 信也
リトル・モア
1,728円(税込)
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荻窪風土記 (新潮文庫)
『荻窪風土記 (新潮文庫)』
井伏 鱒二
新潮社
473円(税込)
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――好きな作家さんの作品は全作品追いかけますか。

杉江 : 思想書のように読んでいるから、その作家の考えを知りたいので全部読みたいと思う。そうすると絶版の本もあるので、古本屋さんで見つけるのが楽しい。

――新刊も読むし古本も読むし、さらには繰り返し読むし。相当量になりますよね。

杉江 : 目標は3日で2冊。月20冊は読みたいですね。新刊も読まないと営業できないし...。僕は新刊は刊行されてから読んでいますが、最近、書店員さんって発売前に版元から送られてくるゲラで読んでいるので「あの本が面白かった」という話に僕とタイムラグができてしまって、それが寂しい...。あ、最近では絲山秋子の『ばかもの』にむちゃくちゃやられました。今年のベスト1かも。誰に聞くでもなく、刊行されてすぐ自分で買って読んだんですけれど。それまでは山本文緒の『アカペラ』の中の「ソリチュード」という中篇がむちゃくちゃ好きで、その1篇だけで今年の1位にしたい気分でした。

――どちらも、世間一般的にはドロップアウトしたと言われてしまいそうな男性が登場しますよね。

杉江 : この2作は同じテーマだと思う。世間の価値観では落ちていった人は、どうやって救われるのか。"ばかもの"って「バカ」でも「バカヤロー」でもなく、愛情がありませんか。心配してくれる人、愛情を持ってくれる人がいて、人を救うんだなって思いました。

――「ばかもの」という言葉が2回出てくるんですよね。

杉江 : そうそう。最初に「ばかもの」って言う彼女のキャラクター、たまらないですよね。「やりたいんだろ」なんて言う。なんだこの女は、という。でもその後、男も女もお互いに変わっていくんですよね。ああいう小説が今、一番好きです。リアリティがあって、既成の価値観にとらわれないというか、勝ち負けじゃないんだよ、というような。あとは真逆で、貴志祐介さんの『新世界より』のような、異世界を描いたものが好きですね。あと趣味で読んでいるのは、今さらなんですが、宮本常一の『忘れられた日本人』とか、柳田國男の『遠野物語』とか...。遠野なんて修学旅行で行っているのに、なんで今ごろよさに気づくの、っていう(笑)。最近民俗学的なものが好きなんです。遠藤ケイの『男の民俗学』全3巻とか『熊を殺すと雨が降る』とか高桑信一の『古道巡礼』とか。その流れで読んだのが『ぼくは猟師になった』。千松信也という人なんですが、33歳で猟師になるんです。

――場所は、どちらで。

杉江 : 京都なんですよね。専業じゃなくて兼業で、昼は別に働きながら猟を師匠に教わって、自分たちで獲って自分たちで食べる。そこからどんどん興味がひろがって、みやざき文庫の『罠猟師一代』というのも読みました。こっちはすごく生々しい写真が載っている。僕はこうした本を読むのを椎名誠的読書、エンタメをガンガン読むのを目黒考二的読書と言っています。僕はその両方を受け継いだんですよね。あ、そうそう、井伏鱒二もハマってます。『駅前旅館』とか『多甚古村』とか。民俗学的に読んでいますね。それで今は『荻窪風土記』を。これは絲山秋子さんのオールタイムベストにも入っていたので。人と人との距離感や、町ののんびりした感じがすごく好き。でも、言えないですよね。「今面白いのは、井伏ですよ!」なんて...。

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