番外編:杉江由次さん

作家の読書道 番外編:杉江由次さん

こよなく本を愛し、書店を愛し、そして浦和レッズを愛する本の雑誌社営業マン、杉江由次氏。ほぼ毎日更新している本サイトの「炎の営業日誌」も、はや8 年。書店めぐりだけではなく、本はもちろんなぜかサッカーについても熱く語るこの営業日誌が、このたび1冊の本になりました。それを記念して「作家の読書道」番外編、杉江由次の登場です。実に意外な読書歴、というよりも人生の変遷が明らかに!

その3 「八重洲ブックセンターで働く」 (3/9)

岳物語 (集英社文庫)
『岳物語 (集英社文庫)』
椎名 誠
集英社
464円(税込)
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印度放浪 (朝日文庫)
『印度放浪 (朝日文庫)』
藤原 新也
朝日新聞
1,080円(税込)
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西蔵放浪 (朝日文芸文庫)
『西蔵放浪 (朝日文芸文庫)』
藤原 新也
朝日新聞社
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アメリカ
『アメリカ』
藤原新也
情報センター出版局
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深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)
『深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)』
沢木 耕太郎
新潮社
464円(税込)
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――精肉工場の後、書店で働き始めた経緯は。

杉江 : 好きなことをやらなくちゃ、と思うけれど何をしていいのか分からなくて。じゃあこれだけ影響を与えてくれた本の世界に入ろうと思ったんです。世間のことを何も知らないから、兄貴に「本を作るところで働きたい」と言ったら、「いきなりそれは無理だ、お前みたいな奴は本を売るところから覚えないと」と言われたんですよね。僕は近所の書店しか知らなかったんですが、兄貴は東京駅を利用していたので、八重洲ブックセンターの存在を教えてくれたんです、あそこがいいんじゃないかって。それで『フロムA』を買ってきたら、たまたま八重洲ブックセンターのバイト募集記事が載っていて。

――すごいタイミング!

杉江 : 文庫本しか知らなかった男が、突然八重洲ブックセンターに面接に行って、1000坪くらいの広さにビックリして。世の中にこんなに本はあるのか、って(笑)。村上龍も椎名誠も文庫本しかないと思っていたら、単行本のところに何冊も並んでいるし(笑)。

――面接では当然、本についていろいろ聞かれたのでは。

杉江 : 知ったかぶりしてもしょうがないから、素直に言ったと思います。今本を読み出したばかりで、全然分からないって。面接の人にも直属の先輩にも「お前バカだなー」みたいなことを言われた記憶がありますね。そして書籍の中の、ほんの一握りしか知らない人間が、医学書の担当を1年ほど、心理・宗教書の担当を10か月ほどやったのかな。

――お客さんの注文や質問への対応が大変そう!

杉江 : 聞いてほしくないから隠れていました。聞かれたらとにかく先輩に確認。先輩たちは背表紙を覚えていて、「あの本は45番の棚の上から2段目の左はしから3番目」と言われて見に行くと本当にそこにあったりするんですよね。この人たちおかしいんじゃないの?って思うほどすごかった。でも僕も半年から1年いるとどの棚にあるかぐらいは分かってきましたね。毎日見ているわけですから。

――本は読んでいましたか。

杉江 : バイトでも割引をしてもらえたんです。そこが第一次乱読期。それまで読んでいなかった椎名誠と村上龍をワッと読みました。『岳物語』なんかもこの頃読んだのかな。一通り読むと、次の人を探すわけですが、そこでハマったのが藤原新也。『印度放浪』『西蔵放浪』...。情報センター出版局から出た『アメリカ』という分厚い本が、1階のワゴンで展開していて、すごく売れていて、何だろうと思って買って読んだら、あまりの頭のよさに圧倒されました。教養と肉体、両方を結びつけているような人で、ガツンガツンとやられて。その後、沢木耕太郎も読みましたね。あの頃ってノンフィクションが元気だったと思うんです。男の子がみんなハマっていた。『深夜特急』を読んで自分も海外に行かなきゃ、と思いましたし。

――放浪に憧れて一人旅に出たりはしなかったのですか。

杉江 : 憧れは強いんですが、一人でいられないので...。

――はっ? 一人ではいられない???

杉江 : 寂しいし人見知りだし、気が小さいので、宿も決まっていないところに行くと思っただけで頭がいっぱいいっぱいになってしまうんです(笑)。一人旅は、出張以外したことがないです。毎日の営業が精一杯です。

――ええええ! あ、でも部屋には友達が入り浸っていたし、一人でいる時間がなかったから...。

杉江 : そうなんです。25歳で結婚するまで実家にいましたし。海外だって、新婚旅行でハワイとグアムに行っただけです。根がネガティブなんです。放浪の旅には憧れるのに、たぶん実際に行こうとしたら、今晩泊まる場所がなかったらどうしようとか考えちゃう。

――強盗にあったらどうしよう、パスポートなくしたらどうしよう、と。

杉江 : そうそう。だから自分ができないからこそ、藤原新也や沢木耕太郎に憧れるんですよね。

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