番外編:杉江由次さん

作家の読書道 番外編:杉江由次さん

こよなく本を愛し、書店を愛し、そして浦和レッズを愛する本の雑誌社営業マン、杉江由次氏。ほぼ毎日更新している本サイトの「炎の営業日誌」も、はや8 年。書店めぐりだけではなく、本はもちろんなぜかサッカーについても熱く語るこの営業日誌が、このたび1冊の本になりました。それを記念して「作家の読書道」番外編、杉江由次の登場です。実に意外な読書歴、というよりも人生の変遷が明らかに!

その6 「金城作品との衝撃的な出合い」 (6/9)

GO (角川文庫)
『GO (角川文庫)』
金城 一紀
角川書店
473円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
レヴォリューション No.3 (角川文庫)
『レヴォリューション No.3 (角川文庫)』
金城 一紀
角川グループパブリッシング
555円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
フライ,ダディ,フライ
『フライ,ダディ,フライ』
金城 一紀
講談社
1,274円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
対話篇 (新潮文庫)
『対話篇 (新潮文庫)』
金城 一紀
新潮社
529円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)
『幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)』
高野 秀行
集英社
562円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS

――ではその時期は、読書はエンタメ中心だったんですか。

杉江 : それと並行して、自分に合う本もずっと探していました。自分の中の価値観が変わってしまうくらいの本がないかなと思っていて。そこで出合ったのが金城一紀さんの『GO』です。もう、むちゃくちゃやられた。出てすぐに読んで、ものすごくラクになったんです。僕は小説を書くことはできないけれど、僕なりに何か伝えたいものがあった。それを金城さんが全部書いてくれた。ああ、オレが持っていた価値観は、金城さんが全部こうやって格好よく物語にしてくれる、と思いました。

――あ、この杉江さん私物の『GO』、宛名入りのサイン本ではないですか!

杉江 : 『GO』が出てすぐに書店員さんに「これが面白いんですよ!」って騒いで言っていたら、後日そのお店に金城さんが編集者と一緒に来たらしいんです。それで本の雑誌社の人がこう言っていた、という話が伝わって、金城さんからありがとうメールをもらったんです。

――感激ですね!

杉江 : これはサイン本を作りに金城さんが書店に行った時、人が足りないとかでお手伝いに行っていただきました。とにかく、金城さんの登場で、やっとオレたちの文学が出たんだ、と思ったんですよね。村上龍を読んでも、やっぱりちょっと上のお兄さんの話。学生の頃に『69』を読んでいたら自分たちもやろうぜ、となっていたのかもしれないけれど、実際に読んだのは卒業した後だったし。お兄さんの話ばかり聞いていて、オレたちの話を誰かしてくれと思っていたら、金城さんが全部代弁してくれた。『GO』は自分のために読む1冊、『レボリューションNo.3』は息子にあげたい1冊、『フライ、ダディ、フライ』は娘にあげる1冊、『対話篇』は妻にあげる1冊。金城さんの著作だけで全部すんでしまう。これからもずっと読んでいきたい。金城さんが50歳になった時、どういう作品を書くのかなあと思う。そして、もう一方で、高野秀行さんの本との出合いも大きかった。

――エンタメノンフの高野さん。

杉江 : 僕は正直、高野さんを読んだのは遅くて。『本の雑誌』の読者アンケートを見ていたら、「そろそろブレイクする作家」に高野さんの名前があったんです。その日に帰りに『幻獣ムベンベを追え』を買って読んで、やられました。僕、ウソじゃなくて、小学校6年生の文集に、将来なりたいものに「川口浩アタック探検隊」って書いたんですよ(笑)。高野さんって、それを本当にやっているわけで。うわーっ! と思って、そこから著作を全部読みました。昨年の『怪獣記』では、高野さんの著作ではじめて泣かされました。幻の動物を探してトルコのワン湖に行って、ゴムボートで湖に出ていくところで、ぐわーってきたんです。そう高野さんに言ったら「バカじゃないの」って笑われましたけれど(笑)。湖に出ていく場面で、人間ってこんなに自由なんだって思ったんですよね。藤原新也がインドで犬に食われている死体を見て「人間は犬に食われるほど自由だ」という言葉を残しましたが、僕は高野さんの本を読んで「人間は怪獣を探すくらい、自由だ」と思って(笑)。

――確かに、自由です。

杉江 : 金城さんと高野さんは、僕にとって現役2トップです。高野さんに「なぜ金城さんの本を褒めている人が、僕の作品も好きだっていうんだろう」って言われたことがある。その時に考えて思ったのは、二人ともボーダーを越えているということなんですよね。金城さんはつねに作品の中で「ボーダーを越えろ!」と言っている。高野さんはボーダーなんかそもそも気にしていない。もう一人、宮田珠己さんも僕の中ではボーダーを越えている人。人と全然違うものを見ているんですよね。『晴れた日は巨大仏を見に』を読むまで、さんざんカヌーで各地に行って巨大仏を見てきたのに、それを認識していなかったことに気づきました。目線の違う人ってすごいなと思う。

――人生の指針となる作品たちなわけですね。

杉江 : そう。あ、30歳くらいの時かな、突然、山口瞳作品も読み始めました。このオッサン、うるさいこと言うじゃないですか。新入社員はこうしろ、酒を飲む時はこうしろって。この説教がたまらなく好きで。やっぱりこれも、人生の指針を求めていたからだと思うんです。『男性自身』シリーズや『酔いどれ紀行』、『迷惑紀行』、『行きつけの店』...。文章もすごく好きなんです。

杉江さん私物の本

» その7 「最近のお気に入り作品」へ