WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2007年10月の課題図書>『冷たい校舎の時は止まる(上・下)』 辻村深月 (著)
評価:
雪の朝、受験を控えた高校生8人が誰もいない校舎に閉じ込められた。時計の針は、数カ月前にクラスメイトが自殺した時刻で止まったまま。
上下2巻で合計約1200ページ、渾身のデビュー作。頼もしいですなと表紙を開いたとたん、「初めまして、辻村深月です」という著者の挨拶が目に飛び込んできた。面食らいつつページをめくると、著者と同姓同名のヒロインが登場。なんといいましょうか、私を見て! と言わんばかりのあまりに強いアピール光線に、すっかりたじたじになってしまいました。5年後10年後くらいに「ああなんという若気の至り」と過去を消したくならないかしら、と余計な心配までする始末。ここまで著者自身が前面に押し出された作品、なかなかない。
内容はというと、謎解きあり怪奇現象あり涙のエピソードありで、ぎっしり盛り込まれている。かなりの長編だが、腕力のある文章が有無を言わせず引っ張っていく。しかし読了後にいちばん心に残ったのは、やはり冒頭2連発のインパクト。気にならない人はまったく気にならないのだろう。しかし、気になる、どうしようもなく。ちっとも書評になっていなくて誠に恐縮だが、こんな読者もいるということで、どうかご勘弁を。
評価:
上下巻で1.100ページを超える長編なのに、読み終えた今直ぐに、もう一度読み返したくなる傑作だ。
センター入試試験1ヶ月前、休校を思わせる大雪、県下一の進学校、高校3年の男女クラスメート8名と26歳の男性担任教師…もう何が起こっても大歓迎な好条件のもと、物語は予想外に静かにスタートする。8人だけの世界、8人だけの今日の始まりだ。
事の発端は、2ヶ月前の学祭最終日の生徒による自殺。可笑しな話だがあれほど震撼したはずなのに、それが「誰」であったかの記憶が「無い」。何故、私達だけが学校に?先生は?時間は?誰が?いくつもの何故?との格闘が読み進む楽しみを与えた。こんなに長いのに飽きない。その要因に8人の優れたキャラクターがある。「時が止まる」その非常時と閉鎖された空間がなければお互い話せないままで終わってしまったことが、ひとつひとつ明らかになる。恋愛、いじめ、家族、それぞれの過去に肩入れしてしまう。そしてひとつの点や個にすぎなかったことが、つながった瞬間の衝撃は悶絶ものだ。
穏やかな終末が返って気持ちを引きずって、物語から抜け出せずにいる。受験という大義名分で疎かにしてはいけないものは、「仲間」と言ったらかっこつけ過ぎだろうか。嗚呼、共学行けば良かった、と今更思う作品です。受験生の息抜きに最適。もっと勉強したくなるかも。
評価:
本の厚みに反比例した厚みがない物語と厚みのない登場人物たち。
学校に閉じ込められた八人の高校生、キーワードの学園祭もこれまたありきたりのパターンです。
こうなるとあとは、読み手の予想を大きく裏切る結末でも用意してくれなければ合格点を差し上げられないのは判ったことなのに、残念ながら捻りのないラストでそれも叶わず。
辛口に酷評してきましたが、途中グイグイっと引きつけられた場面もあったのですよ、ただやはり内容の割には頁が多過ぎたのではないかと思われます。
されど本編は著者のデビュー作とのこと。今後はさらに洗練され、登場人物が生き生きと読者の頭の中で動き回るような小説で勝負いただきたいと期待いたします。
それともう一つ、閉鎖された世界である学校は、定石通り巨大な亀の甲羅の上に背負われていた方がよかったのかもしれません。
評価:
俺は中高と天文部だったので、部活でしばしば、学校に泊まることがあって。特に、冬場の夜の校舎は、闇も深く、空気も冷涼で、たまたま一人になったりすると、世界中から人がいなくなったかのような気分になったものでした。
この作品を読んでると、ついつい、あの時の気持ちにふっ、と戻ってしまって。うちは男子校だったから、深月や清水や景子さん、そして梨香ちゃん(大好き)みたいな素敵な女子はいませんでしたが。
おっと、この校舎でそんな暢気なことは言ってられないや。何しろ5時53分になるたび、仲間がマネキンにされて「死」を迎えるのですから……
登場人物すべてが好きです(梨香ちゃんが一番ですが)。舞台設定も俺の大好きな映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を彷彿させる「閉ざされた学校」だし。でも、一番いいのはやっぱり「冷たくて、時の止まった」校舎の持つ、高校生の魂そのもののような清冽な雰囲気ですね。
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