『クワイエットルームにようこそ』

クワイエットルームにようこそ
  • 松尾スズキ (著)
  • 文春文庫
  • 税込470円
  • 2007年8月
  • ISBN-9784167717384
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  1. ぬかるんでから
  2. クワイエットルームにようこそ
  3. 逃亡くそたわけ
  4. 冷たい校舎の時は止まる(上・下)
  5. 雨恋
  6. りはめより100倍恐ろしい
  7. ウニバーサル・スタジオ
  8. 魔法の庭
  9. ずっとお城で暮らしてる
  10. 血と暴力の国
荒又望

評価:星3つ

 ライターの明日香は恋人と大喧嘩の末、向精神薬の過剰摂取で精神病院に送り込まれた。ベッドの上で目を覚まし、自分の足で外へと出て行くまでの14日間。
 読みながら映像が浮かんでくるあたりは、さすが演出家。明日香と同年代の娘さんが書いたといっても違和感のない文章にも驚く。これだけどぎつい要素と砕けた言葉を散りばめながらも、ほのかに清潔感が漂うあたり、タダモノではない。
 ここには自分をまともだと言い切れる物差しが何もない、と明日香は言う。なるほど。そう頷きかけて、はたと気づく。まともとは、普通とは、正常とは? いったい誰が、どうやって決めたことなのだろう。その境界線は絶対なのか、永遠なのか?
 食事中には絶対に読まないほうが良い幕開けには一抹の不安を覚えたが、あっという間に読み終えてしまい、その短さを物足りなくも淋しくも感じた。映画化されるとのことだが、まさかまさか、あの場面で始まるわけじゃあないでしょうね…?

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鈴木直枝

評価:星4つ

 そんなつもりじゃなかったのに、泣いてしまった。
 「間違ってここにいる」フリーライター佐倉は28歳、バツイチ女性。離婚した前夫の自殺を機に軽い鬱になり、心療内科で処方を受けている。そしてそんなつもりじゃなかったのに、今の彼氏との喧嘩の勢いで死ぬ以上の薬を飲んで「間違ってここに運ばれた」@8階建ての精神病院。人生、思い描いたようになんて全然進んでいないことの典型だ。
 間違って搬送されたせいなのか職業病なのか、佐倉の入院患者への観察眼はつぶさで愉快だ。閉鎖病棟に5年半もいるセレブなピアニストの摂食障害、廊下を通る人に点数をつけるオバサン患者、頭を焦がす女、そんな彼女らに冷徹に対処する看護士の、そうでもしなければやってらんない日常…こんなにお互い喋くりあって賑やかだとは思いもしなかった。佐倉も同様だが、自覚症状はないらしい。「自分はまともだ」と思っている。が、時に何らかの精神的圧力によって、拒食や自傷や薬物などの常軌を逸した行動にでる。自分から望んで精神病院に入院する人がどれだけいるのだろう。ミキサーにかけたドロドロ飯じゃなく「好きな時にポテチ食べたい!」本当だ。頭をちりちりに焦がした女も言う「あたし誰にも悪いことしてないじゃん!」そうなんだよね。でもだから余計に、間違ってここにいると思い込もうとしている姿がせつない。
 佐倉の彼氏で、冗談ばかり言っているというキャラの売れっ子放送作家の存在が私の涙の原因。ダメな奴なんていないじゃん。と最後の最後に思う。著者本人が脚本監督を務める映画化も楽しみだ。

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藤田佐緒里

評価:星5つ

「わたしはとにかく赤の他人の目の前で、シラフで裸で仁王立ちで……」と始まったときから、なんだなんだ、人前でシラフで裸はやばいだろ、捕まっちゃうぞ、それにこれを映画化しちゃうのか、すごいなそりゃ、というかそもそもどんな状況だってんだ、と一人でノリにのって読み始めたのがコレ。この冒頭のスピード感が最後まで失われずに、最後まで思う存分疾走した小説です。
 恋人と大喧嘩して薬をたくさん飲み、病院に担ぎ込まれたわたし・明日香。目を覚ますと、大喧嘩した相手、鉄ちゃんがつきそってくれている。死ぬほどの薬を自分で飲んだくせに、いやいや、わたしは死ぬつもりなんかなかったと明日香はいう。そんな明日香が当然のごとく(?)入れられた病棟で、出会った人々のことを順番に語っていくという連作短編のような形式で話は進んでいく。
 読み始めてしばらくは、この世界の異常さについていけなかった。ぜんぜん理解できない。でも、読んでいるうちに、ぜんぜん理解はできないけど、これは私の心の中の話だな、と思った。病棟の人たちだけが本当の本当にギリギリのところで生きてるように見えるんだけれど、私だって普通に見える人だってみんな同じ。みんなギリギリでもいいんだもんなと思って、最後はとっても救われた気持ちになりました。

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藤田真弓

評価:星2つ

 読み終えてから、文庫本についていた「映画化」という帯を見て、「なぜ、内田有紀が主役なの?」と疑問が湧いたが、それはさておき…。
 松尾スズキ節炸裂!! 「この人は本当に舞台の人なんだな」と思う文章でストーリーが展開。気を失っている間に見ている夢で、‘ゲロを一気飲みさせられそうになる’シーンが挿入されたり、‘恋人の放送作家がマトリョーシカの中にクスリを隠していた’り、本文に直接関係ないけど、読んでいる人が無理なく想像できて「クスっ」と笑っちゃう場面を書けるという点を私はすごいと思いました。精神病院が舞台ということもあってか、登場人物に共感したり、入れ込んだりする楽しさは味わえませんが、「意識をぶっとばす」楽しさは松尾作品ならでは。なにもかも終わりにしたくなった時に読むと、この小説のうまみを味わえると思います。

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松岡恒太郎

評価:星5つ

 マルかバツかでお答え下さい。過去に、現実との境目がハッキリしない夢の中を彷徨ったことがある。すぐには現状把握できない目覚めを経験したことがある。自分という存在を、すべて他人の手の中に握られたことがある。
以上の三つの質問に二つ以上マルをつけられたあなたには、この小説、とても共感の持てる内容に仕上がっております。
ちなみに僕の場合はマル三つでしたので、要所要所で頷くことしきりでありました。
 何かの間違いで、精神病棟に隔離されてしまった明日香さん、そこで出会ったのは個性豊かで、なんとも不可思議な入院患者とナース達。
しかし「何かの間違いだ!」と叫ぶ彼女の声は残念ながら何処へも届かない。かくして正常と異常の狭間であがく彼女の十四日間が始まった。
 そんな悲壮感を吹き飛ばすのは、松尾スズキさんの絶妙のユーモアー。しかし読み終わる頃には、それがさらに淋しさを引き立てるスパイスであったことにも気付くだろう。

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三浦英崇

評価:星3つ

 今回は、この後の『逃亡くそたわけ』と言い、どうして「精神病院」絡みが重なったんでしょうか。ま、そういう時期なのかもしれませんが。どちらも映画化されるみたいですし。で、こっちは入院させられる方の話。

 こんなイライラさせられることばかりの世の中故に、俺は年がら年中、気が滅入ってしまうので、心の調子がおかしくなり、「中」に入れられても仕方ないかも、と思うこともたまにあるのですが……

 優しすぎるから、人の言うことを素直に受け止め過ぎるから、無理を重ねているいるうちに、心がどんどん壊れていってしまう人がいて。そして、壊れていく姿は、ごく客観的に見たら、申し訳ないけどコミカルだなあ、と理解しました。

 でも、ええと。ごめんなさい。俺は、どんなことがあっても、心を壊す訳にはいかない、と改めて決意を固めたよ。ほんの140ページでも、俺にとってはあまりに身近過ぎて、怖くて何度も本を伏せざるを得なかったです。

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横山直子

評価:星3つ

 今年の夏はいつまで続くのでしょうか?
残暑厳しい折、つい先日まで「ザ・虫捕り網」で、蝉取りをしていた娘と私であるが、これは「ザ・精神病院」の話だ。

明日香、28歳。「喜んでいただいてナンボの人生」がモットー。
そんな彼女が恋人と大喧嘩をした挙句、オーバードーズ(薬の過剰摂取)で精神病院に担ぎ込まれた。
全14日に渡る入院生活の一部始終が彼女の口から語られる。
で、クワイエットルームってどんな部屋?
精神病院の中でも「人に迷惑をかけるダメな人が入る部屋」ともっぱら噂されている部屋。
ここに明日香はなんと二度も入れられてしまうのだ。
脳にヨーグルトが混ざったような気分で目覚めたり、自分の姿を鏡で見て心が即死状態となったり、入院患者同士のいざこざや、ナースとの心のすれ違い、などなど、かなり辛い状況。
そんな中、恋人の鉄ちゃんが頼みもしないのに、差し入れをどっさり届けてくれた場面では心がほっかりした。
しかしその差し入れときたら、漫画、ラジカセ、ポテチなどで、実用品は一切なくて、しかもそのすべてがナースに没収されてしまうというおまけつき。
なんだかな〜加減が、せつなく、ばかばかしく、そして愛しい。
映画化されたそうです。こちらも見てみたいと思わせる原作でした。

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