『りはめより100倍恐ろしい』

りはめより100倍恐ろしい
  • 木堂 椎 (著)
  • 角川文庫
  • 税込460円
  • 2007年8月
  • ISBN-9784043863013
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  1. ぬかるんでから
  2. クワイエットルームにようこそ
  3. 逃亡くそたわけ
  4. 冷たい校舎の時は止まる(上・下)
  5. 雨恋
  6. りはめより100倍恐ろしい
  7. ウニバーサル・スタジオ
  8. 魔法の庭
  9. ずっとお城で暮らしてる
  10. 血と暴力の国
荒又望

評価:星2つ

 中学時代、いじられキャラだった典孝が高校に進学した。もう二度と、同じ目には遭いたくない。そして首尾良くバスケ部のチームメイトをいじられ役に仕立て上げることに成功する。
 若い! そして青い! この勢い、この言葉遣い。とてつもないジェネレーションギャップを感じる。しかも本作の原稿は、手書きでもなくパソコンでもなく携帯電話で書かれたという。信じがたい速さで携帯メールを打つ若人の姿をよく目にするが、あのノリでつるつるっと(ではないのかもしれないが)小説を書いてしまうなんて、時代は変わったものだ。もう、ついていけません。
 クラスや部活のなかで美味しいポジションをとれるかどうかが、高校生活の成否を決める。そのためには他の誰かが犠牲になることも厭わない。もちろん全員がこうではないだろうし、多少は誇張して書いているのだろうけれど、イマドキの高校生は大変だなあと同情してしまう。
 ところで本作に描かれている「いじり」の数々、それはもう「いじめ」の域に達しているのでは、としか思えないものも多いのだが、どうなのでしょう。

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鈴木直枝

評価:星4つ

 何やら愉快そうなタイトル、児童書を思わせる鮮やかなブルーが印象の装丁。しかし、注視して欲しい。タイトルの「め」はいじめの「め」。表紙でバルーンにぶら下がっている子どもを標的にしている少年。その現場のそばにいるのに他人の振りをする別の子ども。…当時高校生だった著者だからこそ描けた「いじられ」のリアル小説。これは小説の世界の出来事、ではない。すぐそこの貴方の子どもの物語だ。
 主人公は、中学時代いじられていた。執拗に陰湿に。「今度こそ」と再起を図ってお勉強もうんと頑張って偏差値の高い高校へ入学したものの、場所やメンバーが変わっても同じだった。少し尖がった奴は、己の権力を誇示したいがため、自分がいじられの立場にならないため、標的探しに暇がない。昨日の友は今日の敵。部活である男バスを舞台に、男による男のためのいじられ合戦の展開だ。
 軽くハイタッチでもしそうなはじけた会話、どうでもいいことに時間を潰す放課後、大人になると「バカだった」と思うようなことにド真面目に悩むあたり、今の高校男子のそのまんまが、キツイ内容を軽く読ませている。途中、切れたと思っていた友情にほろりとしたり、いじられに戦々恐々していることを小さく思う科白があったり、エンディングの「えっ!そんなのあり?」も、高校生の作品とは思えないほど「落としどころ」が巧い。金城一紀の「FLY,DADDY,FLY」が好きな人は、より楽しめる作品だ。

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藤田佐緒里

評価:星4つ

 これを読むより先に『文学賞メッタ斬り!』でりはめに関する、豊崎由美さんの書評を読んでいた。はっきり言ってケチョンケチョンに言われていたが、でもなぜか読んでみたいと思って書店に行ったのを覚えています。
 いじ「り」はいじ「め」より100倍恐ろしい。なるほどなあ、と思う。友だちとの会話の中で繰り広げられる、それぞれの立場争い。いじり役、いじられ役、リーダー、下っ端、いろんな役割がだんだん決まってきて、決まってしまったらもう逃げられない。卒業してみんなばらばらになるまで、ずっとその役割に縛られつづけるのだ。それだけはなんとかして防がなければ、と、少年たちは四苦八苦する。
 中高時代、私はかなりの鈍感だったからあんまり気づかなかったけれど、いじめはたしかにあった。そしていじりも然り。相当どうでもいいことで、仲間はずれにしたし、無視もされた。渦中にいたときはわからなかったけれど、ああいうのは、いじめなんていうもんじゃなかった。罪の意識がないだけよっぽど悪質な、いじりだったのだなあと、これを読んで思い起こされました。斬新な言葉遣いや、流れるような会話もすごくうまく、すいすいと読めちゃいました。
 ひたすらケータイで打ちまくってできたというこの作品、とてもケータイの画面には収まりきらない、スケールの大きな作品です。

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藤田真弓

評価:星5つ

 ずばり、面白い。タイトルの意味がよくわからなかったので、あまり期待もせずになんとなく読み始めた…と思ったら、読み終わっていました。口語体特有のリズム感や文章の流れにさほど嫌味も感じなかったのが、「一気読み」できた最大の理由でしょう。
 ここ数年の「お笑いブーム」は、私たちの日常に「ボケ」と「ツッコミ」を浸透させました。飲み会や合コンなどのくだけた感じの席で、「すべった〜」とか「…で、オチは?」なんて言葉、よく聞きますよね。人前で面白いことをすることは、もはや、マナーにまでなりつつある昨今、ひとりひとりが個性(キャラクター)を打ち出していかなければ学園生活も日常生活も楽しめない。「いじり」「いじられ」の力関係を正面から描いたこの作品は、旬モノであると同時にこの先もずっと読み継がれていくのではないかと思います。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 『りはめよりも100倍恐ろしい』この一見意味のわからない題名が曲者なのです。
解らないものだから客はとりあえずパクっと飛びついてしまい、なんだなんだと読み始めてしまえばもう、高校生の主人公の一人称で語られる独特の文体に引き込まれるという寸法で、いつのまにやら著者の術中にはまってしまう。
 高校入学を機にそれまでの人生をリセットし、いじられキャラからの脱皮を図った典孝君。しかしその方法ってのが、自分自身を高めることは棚に上げ、友人を人身御供に逃げ切ろうという浅はかな魂胆だとは、なんとも志が低い。
 彼の目線で物語は進む。今時の高校生の生態を垣間見せてくれながら、物語は進む。なるほどこいつはスピーディーな文体です。感情移入はできないながらも、なんだか引っ張られるように、つられて僕もズンズン一気読み。
 ジェネレーションギャップと遠ざけては損の、一読の価値ありのイマドキ文学でした。

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三浦英崇

評価:星4つ

 職場であれ、学校であれ、人間関係ってのはたいがい、周りに決められたキャラによって左右されてしまいがちです。そして、たいがいの場合、自分に振られたキャラには、納得できないことがしばしばです。

 辛いんですよ、いじられキャラってのは。自分自身、今の職場でそういう扱いにされているところがあるので、この小説で描かれている恐怖は、他人事とは思えませんでした。今回、身につまされる読書が多いのは何かの陰謀ですか(おい)。

 仲間を笑わせることを強要され、次第に要求の度合が強化され、「笑わせる」から「笑われる」ようになっていく屈辱。自尊心が崩壊し、自分に何も価値が見い出せなくなってしまう過程には、戦慄を覚えました。

 タイトル通り「いじり」は「いじめ」より、見かけが一見、仲睦まじそうに見えるだけに、かえって始末に悪いです。この話の現実味は、実際、そういうキャラに追い込まれた者にしか分からないのかもしれません。

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横山直子

評価:星3つ

中高生との深い関わりがここ10年くらいないので、とても新鮮な気持ちで読めた。
しかし、言葉が分からない。
「いじめ」は分かるが、「いじり」って?
タイトルの「りはめ」もよく分からず、最後の解説を読みながら、納得する始末。
ただ、中高生の気持ちが日々が危うい、日々を無難に過ごすことがいかに大変か、そんな感覚はよく伝わった。
学生時代はいつまでも続かないのに、100%どっぷりつかっている時はそれが分からないんだよなぁ。
そんな切迫感も相まって、会話のテンポも良くて、ページがさくさく進んだ。

主人公は中学時代にいじられキャラとして辛い日をすごし、それだからこそとほとんど知る人にいない高校生活に期待をかける。
「人気者といじられキャラは紙一重」
「いじめなんかよりいじりのほうが全然怖いと思う」
著者は現役高校生(当時?)で、彼が紡ぎだすセリフが胸にぐさぐさと突き刺さる感じがして、辛かった。
心の拠り所は「おな中」(同じ中学校の卒業生)の一人とあり、ここでは安堵の気持ち。
それにしてもラストの展開には驚きました。
「軟他瑠琴陀余(なんたることだよ)」、主人公の叫びに大いに共感!

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