『ずっとお城で暮らしてる』

ずっとお城で暮らしてる
  • シャーリイ・ジャクスン (著)
  • 創元推理文庫
  • 税込693円
  • 2007年8月
  • ISBN-9784488583026
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  1. ぬかるんでから
  2. クワイエットルームにようこそ
  3. 逃亡くそたわけ
  4. 冷たい校舎の時は止まる(上・下)
  5. 雨恋
  6. りはめより100倍恐ろしい
  7. ウニバーサル・スタジオ
  8. 魔法の庭
  9. ずっとお城で暮らしてる
  10. 血と暴力の国
荒又望

評価:星3つ

 一家毒殺事件の生き残りであるメリキャットは、姉のコンスタンスとジュリアン伯父さんの3人で静かに暮らしている。屋敷のなかにいさえすれば、いつまでも幸せのはずだった。
「大好きよ、メリキャット」
「大好きよ、コンスタンス」
 優しく声をかけ合う、うら若き姉妹。それはそれは美しい光景のはずなのに、得体の知れない怖ろしさがからみついてくる。3人が互いを思いやりながら穏やかに暮らしているだけなのに、ひたひたと押し寄せてくる何ものかの気配と、ぼんやり透けて見える狂気に肌が粟立つ。凄惨な事件や人々の悪意などよりも、おとぎ話のように調和のとれた3人の暮らしぶりのほうが、よほどぞっとする。正体のわからないものに背筋をぞわぞわと撫で上げられているような、なんともいやーな心持ち。あえて説明を省くことで読者の想像をかき立てる筆致も、また不気味。
 読みながら、ふと背後が気になる。でも振り向けない…。わかりにくい恐怖こそ、いちばん怖ろしいのかもしれない。

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鈴木直枝

評価:星3つ

 突然の不幸な事件から、病弱な叔父さんと村いちばんのお屋敷に住むことになった姉妹の物語。どこか叶姉妹の妖艶さを感じたのは私だけだろうか。
 彼女らの生活は規則的に閉塞している。村への買出しは週2回、舌なめずりしそうな毎日の食卓、農産物は庭で収穫し、訪問客は極力少ない。「変」だ。解説で桜庭一樹が語る「本の形をした怪物」の怪を知るのにそう時間はかからなかった。こういう恐怖がいちばん怖い。流血や銃撃戦や生首ゾロリより、相手が何を考えているかわからない不安、懐疑心のほうが怖い。「この人たち、一体何者?」。けれど、本当に怖いのは誰なんだろう、人そのものなのだろうか、群れることで強くなる人の心なのだろうか、ラストシーンで幸せを感じるのは?
 見えない、わからない、だからこそ募る村人たちの興味関心好奇心。「放っておいてよ」そう言えたら楽なのに。「あの事件、本当はどうだったの?」と真実追求が出来たら気持ちも晴れていたのに。そうじゃないから、空想がひとり歩きをする。困ったほうに、怪しいほうに、邪悪なほうに。だって人は自分より不幸な人間を見て安心したいから…怖っ!

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藤田佐緒里

評価:星3つ

 だ、だから、怖い話は苦手だって言ったじゃないですか…。この蚤の心臓をできるだけ刺激せずに甘やかしておいてやってくださいよ…。本当にもうこれは冗談じゃなく怖かったです。怖いものが苦手じゃない人でも、読んだら絶対に怖ろしい思いをします。私みたいに怖いものが極端に苦手な人は、途中でやめないようにとにかく努力することです。途中でやめたら読了するよりよっぽど怖いです。
 主人公メリキャットは姉のコニーと、一家惨殺事件があった屋敷でこもるようにしてずっと暮らしていた。外出するのは食料品を買いに出るときくらいで、あとはほとんど屋敷にこもっている。しかしそれも、いとこが家に来るようになったことでバランスを崩していく。
 本文は、メリキャットの一人称で語られるように進んでいくのですが、メリキャットの語り口がなんだか妙に幼いことが、この物語の怖さをさらに助長しているように思えてなりませんでした。アンバランスさと危うさがただよう、本物のホラー小説です。

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藤田真弓

評価:星2つ

 この物語で一番興味を持ったのは姉のコンスタンスの存在です。
ブラックウッド家は村で一番の資産家。一族のほとんどを毒殺したと疑われているのは姉のコンスタンス。生き残った妹のメアリとジュリアンおじさんの世話をしながら生活をしています。従兄のチャールズが訪れるまで、姉の興味は妹のメアリへ向いていました。家の中はメアリの空想に合わせて、穏やかな時間が流れます。まるでブラックウッド家の3人以外は世の中に「居ない」ものとして。チャールズがやってきたことで、一変。姉は徐々にチャールズの色に染まり、「ジュリアンおじさんを病院に入れたほうがいい」、「あなたもボーイフレンドを作ったほうがいい」などまるでメアリを非難するような発言が増えます。
 それまで、コンスタンスもメアリと同様に外部の侵入を阻んでいるのかと思いきや、ジュリアンの一件で妹との違いが浮き上がる興味深い部分です。姉が騙されているようにも見えますが、妹の悪意がここにあるとも言えます。一番平凡だったはずの姉が、悪意の渦に飲み込まれてしまう。ここに奇妙な不快感、ざらっとした読後感があるように思います。

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松岡恒太郎

評価:星1つ

 とにかく僕は最後の最後まで、この小説から何を読み取ったらいいのかが解らずじまいだった。
 根暗で閉鎖的な姉妹が、最終的には村人からも距離をおき、ずっとお城で引き籠もるって物語、どうぞお好きにしてくださいという感想しか出てこない。
本来は、純粋でそれでいて残酷な童話のような作品だとこの物語を紹介するべきなのかもしれないけれど、やっぱり駄目です、どうも僕の許容の範囲を越えています。つまりは肌が合いません。
はっきり言って、あなたの家庭環境にも生い立ちにも全く興味はないのですよメリキャットさん、どうかこの先も姉妹仲良くいつまでも好きなだけお家の中で籠っといてくださいねメリキャットさん。
 考えさせられることもなく、読了後も気持ちがややささくれ立つ物語。
陰鬱な気分になりたい方にお薦めです。

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三浦英崇

評価:星3つ

 心が沈んでる自覚がある時に、病んだ雰囲気に満ち溢れた本を読むのは、結構危険です。この本、手に取った瞬間に「うわ。ヤバっ」と分かりました。そんなこと言ってる時点で、俺自身、相当ヤバめな気もしますが。でも、健全な気分で読んでは、見えてこないものもあるのです。

 集団毒殺事件を生き延びた、旧家の姉妹とその叔父。毒を盛ったのは姉の方だと目されてはいたものの、証拠不十分で釈放。しかし、閉鎖的な集落の人々が向ける、生き残った彼らへの視線はとても厳しく、三人は館に引きこもる毎日。そこに従兄が現れて……

 妹のメリキャットの語り口が相当壊れ気味で、そういう破綻ぶりに、ついつい引き寄せられてしまう俺は、文体に浸りきりました。いささか病的な引き寄せられ方だなあ、とは思いつつ。

 ごくさりげなく、恐ろしいことが示唆されていて(毒殺事件の真相とか)、闇の中に妖しく光る小粒の宝石を拾うのに似た、やましい嬉しさたっぷり。

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横山直子

評価:星3つ

 タイトルだって、表紙の写真だって、一見ラブリーで、どこかのお姫様の話かな〜なんて思ってしまいそうだが、まったくもって違うのだ。
「やわらかくてバターたっぷりの卵を作るわ」
「ちっちゃなラムケーキを作りましょう」
文中にちりばめられた美味しい誘惑にもゆめゆめ乗ってはなりません。
ご用心、ご用心。

なにしろ舞台はある資産家のお屋敷。
数年前、他の家族が殺された惨劇があったにも関わらず、その屋敷に積み続ける生き残りの姉妹と叔父さんの話なのです。
しかも惨劇の原因は毒殺、料理を作ったのが生き残った姉ということになれば…。
姉を必死でかばおうとする妹、そしてなにくれなく妹や叔父さんの面倒を見ようとする姉。
それにしても「あたしたち、とっても幸せね」とつぶやきあう姉妹にはゾクリ。
そんな中、際立つ演技を見せてくれたのが飼い猫のジョナスちゃん。
ジョナスがいてくれてよかった、そう思いつつ、最後まで読みました。
しみじみ怖い話を読みたいなら、この本がイチオシです。

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