WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年1月のランキング>藤田真弓の書評
評価:
現在の記憶を持ったまま9ヶ月前の自分の体に戻り人生をやり直せるという「リピート」。
この不思議な時空体験に誘われ、10人の男女が人生をやり直す。だが、次々に彼らは謎の死を遂げていく。一体、誰が?なんの目的で?残された仲間は、疑心暗鬼になりながらも次のリピートの日に向けて、なんとか生き抜こうと力を合わせるのだが……。
「過去の人生をやり直せば、ハッピーになれる」という願いが叶わないところにタイムトラベル物の面白さがある。やり直すということは、新しい選択肢を自分でつくることだ。つまりそこに新たな後悔や失敗が生まれる。結局やり直しきれない部分が出てきて、その対応に追われる主人公の姿をリアルに書いている。ここが小説に引き込まれる楽しさを味わえるところだった。しかも、「リピート」には乾くるみさんならではの仕掛けがきちんと用意されている。これ以上書くとネタばれしそうなので書かないが、とにかく納得のいく「オチ」がある。今の人生を後悔しないようにしようかな、と思わせるだけの力はある……かも。
評価:
つかず、離れず。この距離感がすごくリアルに表現されていた。好きな人に触れることさえ出来ないでいる日向子は、自分の想いをもてあましている。自室から飛び降りて骨折して入院している小田切を病室で見ながら「私はこの人にとってなんなんだろう。自分のことをのっぺらぼうに感じるのはそういうときだ」という本音が書かれている。目の前に居る、それなのに近づけない苦しさで浮気をしたり、二人の関係について自問したり、ぐるぐる考えが巡っている。他人から見るとじれったいこと極まりない二人なのだが、一人の人を何年も一途に片思いできることは奇跡に近いとも思える。純愛とはこんなにもみじめで地味なのか?! 日向子が友人に別の男はいないのか?と問われて口にした「(小田切とは)歴史がある」の言葉が胃のあたりでぐっと締め付けてくる。恋ってなんだ?好きってなんだ?私の頭も袋小路に迷いこんでしまった。
評価:
ヤクザが倒産寸前の出版社を立て直す!? 今時珍しい任侠道をわきまえた阿岐本組の組長の気まぐれにより、主人公日村誠司は梅ノ木書房に出向することになった。そこにマル暴の刑事も絡んできてトラブル連発!!
社会の日陰を歩くヤクザが、インテリ集団で社会的地位も高い出版社を舞台に再起を図るストーリー。絶対にありえない! とわかっているのに、なぜかぐいぐい引き込まれてしまう。日村が繰り返し語る「ヤクザは地域の人々に信用されてこそ、稼業が成り立っているのだ」という阿岐本組の任侠はファンタジーを感じずにはいられないが、ここに登場するキャラクターが非常に魅力的だ。一番若くてベテラン編集者に一丁前の意見をする志村真吉、パソコン通の市村徹、わが道をゆく気分屋の阿岐本組の組長、彼らをまとめていく日村誠司。ただ、登場人物が多いので描ききれていない人も居たようにも思う。
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