WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年1月の課題図書>『幼年期の終わり』 アーサー・C・クラーク (著)
評価:
オーヴァーロード(最高君主)と呼ばれる異星人が乗り組む巨大な宇宙船が上空に現れ、地球を支配下に収めた。脈々と続いてきた人類の営みは大きく様変わりするが、しかしこれはほんの序章に過ぎなかった。
「人類はもはや孤独ではない」
冒頭に登場するこの1文に釘付けになった。人は、ではない。人間は、でもない。人類は、だ。孤独だったのか、人類は?
未知なるものと遭遇し、それと共存していくことになった人々の姿を描いた本作。オーヴァーロード出現後の世界は想像力を最大限に働かせて思い描くことしかできないけれど、舞台はあくまで地球で、主人公はあくまで人類。SFにはあまりなじみがなくても、意外にとっつきやすい。
オーヴァーロードというより大きな存在が現れたことで、ほとんどの争いごとは意味をなくし、人々はかつてない平和と秩序を謳歌する。この黄金期が永遠に続けば良かったのだが、地球は、人類は、さらにさらに変化していく。その変化は、進化とみるべきか、退化とみるべきか。著者の筆によって運ばれていった先には、地球と人類の、驚くべき姿が待っている。
評価:
こんなワクワクは久しぶりだ。ありえない話。だがここまでSFでまとめてくれると、意外にもその世界に入りやすい。楽しかった。
驚いたことに、初出は1953年。私は勿論生まれていないし、パソコンも携帯もない時代のことなのだ。それなのに全然古くないどころか、あれもこれも欲しがった先の顛末は、現代社会への痛烈な批判とも受け取れる。その意味では、乾くるみの「リピート」と通じる要素があるかもしれない。
ある日忽然と、空に巨大宇宙船の群れがやってきたことが発端だ。地球外生物だといういう彼ら、独裁者ではないらしい。けれど、姿を現さない彼らと話をできるのは国連事務総長だけ。その中で、「50年後の世界国家の創設」を約束される。そこは、自由とユートピア理想郷だという。本当だろうか、そこはあんな面倒もこんな災難も無いというのか。
後半は、その50年後の世界で、人が何を思い、何が衰退し、最終的に何が残ったのかが、露になる。人間、少し足りないくらいが丁度よいのかもしれない。
評価:
私の大好きな古典新訳文庫! このシリーズは本当に楽しくて大好き。馬鹿だし物を知らない私にも優しい、それでいてクオリティはそのまま(と誰かが言っていたからそう信じている)のこのシリーズは、私にとってまさに救世主のようなものでございます。あまりにも有名な作品なので、だいたいの内容は知っていたのですが、まともに読んだのは初めて。とても読みやすくて面白かったです。
時代は、宇宙開発競争が激しさを増していた1970年代。円盤状の宇宙船が、世界の首都に現れる。ちょうど先日、友人から「いまUFOを見た。どうしていいかわからなくて、とにかくオロオロして空を見ていたら、今度は流れ星の大群がわーっと降ってきて、連れ去られるかと思ってドキドキして電話しちゃったよ! どうしよう!」と興奮した様子で電話がかかってきたのを、ふふんと鼻で笑ったばかりで、そうだよ、こういうことはSF小説で起こるから楽しい話なんだよ、と思って楽しく読んだ。
SF史上における傑作として名高いこの作品だが、今の時代に読んでもまったく色あせることなく、むしろ今だからこそ新しく感じて読むことのできる、傑作という評価にまったく劣らない小説だ。
評価:
とんとSFに疎いもので、古典の部類に入る大家の書かれたこの小説も、今まで知らずにおりました。
名作の呼び声高かった『2001年宇宙の旅』の原作者なのですね、クラークさん。キューブリック作品は『時計じかけのオレンジ』を観て肌が合わないと遠ざけ、かの作品もDVDさえ観ておりませんでした。
著者が生きた時代から、現在へと続く時間の流れのどこかの時点で、枝分かれした別の未来があるのなら、その地球で別の人類がオーヴァーロードに出会っている、そんな気にさせる物語。
SFと呼ぶにはあまりに叙情的で、哲学的でさえあるこの作品は、ちっぽけな僕の考えなど吹っ飛んでしまうほどの宇宙観で満ち溢れていた。著者の想像力の翼は、遥か銀河の彼方まで広がっている。
科学特捜隊が出動するようなせせこましい空想科学も嫌いではないが、時には壮大な宇宙と人類の未来に目を向けるのもいいかもしれません。
評価:
『SFマガジン』を10年読み続けないと「SF者」って名乗っちゃいけないって本当ですか。10年以上読んでるけど、いまだに俺は「SF者」って名乗る自信ないですが。で、そんな生涯一素人SFファンの俺ではありますが、もちろんこの作品は名作中の名作ですし、今回でたぶん読むのは6回目。でも、読むたびに「何でこんなに哀しいラブストーリーを書くかなクラークも」って思っちゃうのです。
え、どこが「ラブストーリー」かって? この作品は、自分にはない素晴らしいものを相手に見い出し、恋焦がれて辛い想いをして、相手が手の届かないところに行っちゃうのを見守り、辛い思いしながら「ばいばい」する話ですよ。「お前に俺の気持ちは分からないだろうけど、俺はお前のこと死ぬまで忘れない。さよなら」ってのを、オーヴァーロードとかそういうのに託して書いてるんです。
かなり偏っててすみません。でも、幻視と偏愛は「SF者」の特権ですし。
評価:
空いっぱいに浮かぶ巨大な宇宙船。
その姿が美しくもあり、見てみてワクワクするようでもあり、でも…。
「その日がついに訪れた」と言われたら、そうですかその日に立ち会うことが私はできたのですねという思いと心の奥底から沸いてくるさまざまな期待、不安でぶっ倒れてしまうかもしれません。
毎度のことながら、物語世界に入り込んでしまう私…。
いやはや今回もどっぷりとはまり込み、宇宙の旅をして参りました。
異星人との関わり、取り巻く環境の激変…
SF小説とは分かっていても、ひたひたと感じる未来の手ごたえ。
「記録はここまで。ミッション完了。」のところでは、ことさらに大きなため息が出たのでした。
帯に「SFを超えた哲学小説!」とありました。
初版から36年後に書き直された新版の初の邦訳だそうです。
内容がちっとも古さを感じないことに驚きを隠せない私でした。
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