『脱出記』

脱出記
  • スラヴォミール・ラウイッツ(著)
  • ヴィレッジブックス
  • 税込882円
  • 2007年11月
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  1. リピート
  2. 裏ヴァージョン
  3. 袋小路の男
  4. 乱世疾走 禁中御庭者綺譚
  5. とせい
  6. 神州纐纈城
  7. 古時計の秘密
  8. 幼年期の終わり
  9. 脱出記
  10. キューバ・リブレ
荒又望

評価:星4つ

 第2次大戦中に無実の罪で強制労働25年を科された著者が、仲間とともにシベリアの収容所を脱走する。自由と安全を求める彼らの、12カ月間、6500キロの苛酷な道程を記したノンフィクション。
 凍てつくシベリアから灼熱のゴビ砂漠を縦断し、ヒマラヤを越えてインドを目指す。水も食料も、充分な装備もない。圧倒的な悪条件のなか、それでも歩き続ける、また生きるために。著者が生き抜くことができたからこそ本作を書くことができたのだとわかっていても、次の瞬間には命を落としてしまうのではないかとはらはらし、祈るような気持ちで読み進めた。
 死に等しい苦しみを味わわせるのも、救いの手を差し伸べるのも、どちらも人間。希望を奪うこともできるし、与えることもできる。いくらでも惨くなれるし、どこまでも尊くなれる。もちろん本文中には、人間とはうんぬんかんぬんといった説教臭い言葉はひとつも出てこないけれど、そんな人間の両面が、随所から浮かび上がってくる。
 終盤に描かれるファンタジックな邂逅を含めて、これらがすべて事実だということにまず驚く。そして、ずしりと重く胸に響く1冊。

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鈴木直枝

評価:星5つ

 どれだけ過酷でもこれ以上の生き地獄はないだろう。どれだけ我慢強いとしても彼以上の困窮に耐えられる輩はいないだろう。極寒と熱砂漠のシベリアからインドまで、1年に渡る6500キロの歩行記録である。
 そもそもはポーランド人というだけで逮捕された。時代は1939年。収監されている時から地獄図は始まっていた。この男、どこまで耐えるのだ。第一章の凄みだけで、本が一冊刊行できそうだった。死んだほうがまし?と思うほどの拷問の後に下された判決は25年の強制労働。それならいっそのこと抜け出してしまえ。意を決した6人のつわものが同行した。
 ただ歩くだけならまだいい。彼はシベリア強制収容所の脱走者なのだ。労役の合間に僅かずつ貯めた食料と着の身着のままに近い服装。一日45キロの歩行、40日にもわたる雪道行進、同行者の数が減っていく現実に、未来や夢を感じることは出来なかった。けれど、彼らは言う。「人はどん底を知ると希望しか浮かばない」と。
 同じように脱走してきた17歳の少女が、同行を懇願したとき彼らは言う。
「私達が提供できるのは盛りだくさんの苦労だけ」と。
 今度こそ駄目だろう、と思う先に「人」と言う名の希望があった。一期一会にためらうことなく施しを与える「人」がいた。だから、彼は88歳まで生き抜いたのだ。あっ晴れとしか言いようがない。

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藤田佐緒里

評価:星4つ

 これがノンフィクションだということが、私には到底信じられない。最初から最後まで驚くことばかりだ。フィクションなら理解もできようが、こんな事実が同じ人間の体に降りかかっていようとは、とても信じがたい。
 スパイ容疑で逮捕されたラウイッツ(でも実は無実の罪だった)にくだされた判決は25年の強制労働だった。でも無実だし、こんなところに25年も閉じ込められて働くなんてありえない、と仲間6人と脱出計画を立てる。逮捕されてからの尋問やら拷問やら、シベリアへの移送など、とてつもなく強烈な描写が続く。これがフィクションなら楽しくてしょうがないのだが、実際にあった出来事だと思うとちょっと笑えず、面白いんだけどなんとなく深刻な気持ちで読んでしまいました。
 脱出は成功。そして彼ら6人はシベリアからインドまで歩くのである。本当に信じられない。学生時代、終電をなくして新宿から荻窪まで歩いたところで始発に追い抜かれて、徒歩での帰宅を諦めた私としては、彼らの雄姿にいたく感動した。
 第二次大戦中にこんなことがあったとは、本当に驚きだし、こうして読み継がれていく意味がある作品だと改めて思いました。

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松岡恒太郎

評価:星5つ

 奇跡の物語を今読み終えた。
生身の人間ができうるであろう限界の、いや既に限界はとうに超えているであろう体験の、記録をたった今読み終えた。
 体力と言う言葉だけでは到底片付けられない、胆力という言葉こそが必要となる行程。大地が凍るツンドラの地より、ゴビ砂漠を越え、最後はヒマラヤを横断し、そしてインドに至る徒歩による大陸縦断の記録。
 無実の罪でソヴィエトに捕らえられ、シベリアの地に拘禁されたポーランド人である著者は、仲間と共に強制収容所を脱走した。
気持ちさえ挫けてしまえば直ちに死が訪れる状況下に身を置いて、彼らは自由のため、ただ誇りのためだけに歩みを進めた。
苦難があり、出会いがあり、奇跡が起こり、そして仲間の死を見取り、ついには満身創痍での到達。
この本からは、作り物ではない感動が確かに伝わってくる。
 一字一句読み飛ばしては申し訳ない、そんな気にさせる一冊です。

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三浦英崇

評価:星4つ

 証拠も何一つないのにスパイに認定され、貨物のように運ばれてシベリアで強制労働。こんなところで二十年以上もやってられるか、ってんで、仲間を募って大脱走。厳寒のシベリアから酷暑のゴビ砂漠、果ては登山の経験も無いのにヒマラヤを越えてインドまで、逃げに逃げた男たちのノンフィクション。

 すごい人たちに対して「すげえ」って言うだけでは芸がないから、何とかしたいんですが…… どうしても「もうちょいいろいろ考えてから動いた方がええんちゃうか」という、身もフタも血も涙も無いツッコミを入れたくなってしまうのです。いや、本人達は当然、逃げるのに必死だったとは思うんですが。さすがにモンゴルまでソ連兵が追ってくることもないだろうから、砂漠越えの準備は万端にしていいんじゃないか、とか、何でヒマラヤ越えなきゃいかんのか、とか。

 突っ込むとかえって自分の卑小さが目立ちますね。ごめんなさい。素直に感動を伝えられなくて。

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横山直子

評価:星5つ

 私の新刊採点員の最終回特別枠ということで、星は100個差し上げたい。
それぐらい良かった。

強制収容所からの脱出記。ポーランド陸軍騎兵隊中尉だった著者の渾身の一作だ。
どんな言葉を尽くしてもとうてい及ばない真実の重みに打ちひしがれる思いを持ちながら読み切った。
七人の仲間と共に収容所脱出してから、シベリアからインドまでのはるかな道のりをただただ歩く。
極限の寒さ、暑さ、ひもじさ、疲れ…。
さまざまな困難にさらされながらも、メンバーのそこぬけ〜に明るいところに何度も救われた。
その道中でポーランド人の少女が加わり、一行はしばらく8人となる。
疲れきった少女をいたわり、なにくれとなく世話を焼く男たちの姿はまるで白雪姫と七人の小人たちを思い起こさせて、心が温かくなった。
そして私が心を動かされたのはこれまた道中で出会った人々の、特にチベット人のもてなしの心だ。
なんと言えばいいのか、生きるうえで突き詰めていけばなにが一番大事なのかを静かに示してくれたような気がする。

ほかにも感動したところはたくさんある。
この本を片手に話をすれば、数時間ではとうてい足りない。
「脱出記」読書会を開いて、この熱い思いを誰かと共感したいくらいだ。
新刊採点員に選んでいただいて、この本に出合えて良かったとしみじみ思う。
本当にありがとうございました。

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