『乱世疾走 禁中御庭者綺譚』

乱世疾走 禁中御庭者綺譚
  • 海道龍一朗 (著)
  • 新潮文庫
  • 税込940円
  • 2007年12月
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  1. リピート
  2. 裏ヴァージョン
  3. 袋小路の男
  4. 乱世疾走 禁中御庭者綺譚
  5. とせい
  6. 神州纐纈城
  7. 古時計の秘密
  8. 幼年期の終わり
  9. 脱出記
  10. キューバ・リブレ
荒又望

評価:星5つ

 群雄割拠の戦国時代。世の乱れを憂える帝の命を受け、5人の若者が「禁中御庭者」として天下の情勢を探らんと活躍する。
 兵法家、商人、修験僧、香道師、女剣士。御庭者に任命されたのは、良く言えば個性豊か、悪く言えばまとまりなくばらばらな顔ぶれ。野心あらわに天下統一を狙う信長を追って北へ東へと走り回るうちに、しだいに互いを認め合い、仲間としての固い絆ができていく。それぞれに屈折した部分を抱えてはいるけれど、乗り越え、凛々しく成長していく若者たち。そのフレッシュさと、彼らを導く大人たちの渋さと、刃のような信長の威光。三者三様の輝きが、存分に楽しめる。
 ひとつひとつの場面が丁寧に書き込まれているけれど、間延びせず、最後まで躍動感が続く。がっちりとした歴史小説であると同時に、鮮やかな冒険活劇でもあり、すがすがしい青春物語でもある。決してスーパーヒーローではない御庭者5人衆のおかげで、娯楽的要素もたっぷり。続編を心待ちにしたい、読みでのある作品。

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鈴木直枝

評価:星4つ

 苦をせず労をせよ。中学時代の恩師の言葉が胸を過ぎった。主張大会に出場することになった私のために、私時間を割いて添削を繰り返し、練習に付き合い、大会での結果に一緒に悔しがってくれた。担任でもない私のために。
 時代は、安土。天下統一を目論む織田信長の先見眼が抜きん出て席捲していた。が当然それをいぶかしむ者もいる。「本当の力ってどうよ?信長ってどんだけ?」と朝廷から派遣された腕に覚えのある五人衆の信長偵察記である。
 戦国といわれる時代だけあって、小さな諍いは絶えることがない。五人も行き先々でトラブルにぶつかり、時に生死の危険も伴う。そんな時、わが身を省みず仲間のために奔走する様に、何度も心を揺さぶられた。特に、431ページからは名言が続く。この言葉に出会うための430ページであり、出会ったからこその残り333ページなのだ。
 前半、高校レベル以上の日本史知識が必要だと感じた。が、直に慣れる。764ページの大作に腕が疲れる。が、大丈夫、筋肉が付く。
 信長の急躍進ばかりに注目が行くこの時代にあって、陰で翻弄される市井の人たちへの愛あふれる力作。時代を羨んでみたり、女官のご機嫌とりに躍起となる様は、現代にも通じており幾通りもの読み方が出来る。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 永楽通寶の旗印を掲げ天下布武を唱えつつ、しだいに乱世の王としての片鱗を見せ始めた織田信長。そんな信長に危惧を抱いた朝廷側は、信長の動向をいち早く把握するため、秘密裏に五人の勇者を呼んだ、その名は、禁中御庭者、参上!残念ながら仮面の忍者は登場いたしませんが、なかなかどうして粒ぞろいでございます。
 文句なしに面白い歴史時代小説。
一芸に秀で、しかも一癖も二癖もある者たちが、集い反発しながらしだいに認め合い絆を深めてゆく物語。自分にはない物を仲間の内に見出して各々が更に成長を重ねてゆく。
 途中、史実に結びつけるためか、やや強引な手法やリアリティーを欠く箇所も見受けられたが、そこはなんと言っても冒険活劇。人情話がクド過ぎようと、偶然が偶然を呼び込もうとも許容範囲内のご愛嬌、ケチをつけてはいけません。
 巨大な敵に立ち向かう五人の戦士。五つの力を一つに合わせて、叫べ勝利の雄たけびを、禁中御庭者、丸目党!

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三浦英崇

評価:星3つ

 戦国の革命児・織田信長。彼の進む道は果たして、天下に平和をもたらすのか、それとも、更なる戦乱を招き起こすのか。その行く末を見定めるために、上泉信綱をはじめ錚々たる面々が推薦人となり「禁中御庭者」を結成。一癖も二癖もありそうな連中が、最初は反目しあうものの、危難を乗り越えながら、次第にチームとしての結束を固めていくさまは、エンタメ小説の王道だと思うのですが……

 読み終わって、何か物足りない。何だろう、と思った時に、ふと、自分の軸足が置かれている「ゲーム」というジャンルとの関連で、気付いてしまいました。そう。この小説には「小説世界全体に君臨する敵」がいないということに。

 信長はあくまで、彼らにとって観測対象に過ぎず、物語各所で出てくる敵対的勢力は、所詮、各キャラに因縁のあるローカル限定なものになってしまっているのです。

 せっかくいいキャラ集めたのに、疾走させただけで終わっているのが残念です。

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横山直子

評価:星5つ

 「信長は今までの成出者とは質が違う、あれは別格や。」
帝に「まるで二人の信長がいるようにも思える」と言わしめた。
その難解な漢(おとこ)、信長の動きを探るために結成された「禁中御庭者」、いわば天皇の直属の忍者たちの物語だ。

集められた五人の若者は揃いも揃ってユニークな人材ばかり。
そうそうあれあれと、西遊記の最強メンバーを思い出す顔ぶれだ。
熱血漢あり、無気力あり、大真面目あり、そして潔い行動派あり。
その中でも紅一点の柳生凛は際立っていた。
風貌や言動は男勝りながら、その行動力とふと見せるやさしさに、ホロリ。
それにしても個性の強い五人の若者たちが最初はその関係を探りあい、ぶつかり合いながらも徐々に同じ目的のために力を合わせたり、相手の良さを素直に認めたりする姿を見て、またまたホロリ。
長編だったが、ぐいぐいとラストまでひっぱっていく魅力がある。
読後はすこぶるさわやか。

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