『はれときどきぶた』矢玉四郎
●今回の書評担当者●勝木書店本店 樋口麻衣
子どもの頃に読んで、大人になった今でも忘れられない本ってありますか?
私には、子どもの頃に読んで衝撃をうけた本があって、今でもその本のことが忘れられません。その本と出合ったとき、子どもながらに「そうそう、私はこういう本が読みたかったんだよ」と思った記憶があります。読みながら、ワクワクして大笑いもするのに、なぜだかだんだん怖くなってきて、背中がゾワゾワしてくるので、壁に背中をくっつけながら丸まって読んだことを覚えています。
それが、今回ご紹介する『はれときどきぶた』です。
毎日、日記をつけていることが自慢の則安くん。ある日、母さんがこっそり日記を見ているのに気づいて、今度から「あしたの日記」を書くことに決めました。うんとメチャクチャなことを書いて、母さんをびっくりさせよう! ところが、則安くんが書いたメチャクチャなことが次々とほんとうのことになってしまって......というお話です。
たとえば則安くんは、こんな日記を書きます。
6月5日金曜日 くもり
おかあさんがえんぴつをてんぷらにしました。
おとうさんは「うまいうまい」といって、ばりばり食べました。
お母さんは日記の通り、本当に夕飯にえんぴつの天ぷらを作ります。
そして、お父さんは「やっぱり、HBから3Bくらいが、やわらかくて、うまいな」なんて言いながら、おいしそうにえんぴつの天ぷらを食べます。
ところがえんぴつの天ぷらを食べすぎたお父さんは、お腹が痛くなってしまいます。そんなお父さんに、お母さんが「あること」をすると、お父さんの腹痛は治ってしまいます。さて、お父さんの腹痛を治した、「あること」とは何だったのでしょうか? これはもしかすると、大人より子どものほうが簡単に答えられるのかもしれません。
こんなお話のほか、どんどんメチャクチャなことが現実になっていきます。
それが、子どもの頃の私にはおもしろいけれど、とても怖くて(大人になった今でも読み返すと少し怖かったです......)、でも続きが気になって読むのをやめられませんでした。
この本には、想像力を働かせることや、物語自体に教訓があること、最後のオチに驚かされることといった、本を読むことの醍醐味がたくさん詰まっています。私はどんでん返しのような読者を驚かせる仕掛けのある作品が好きなのですが、その原点は、この『はれときどきぶた』にあると思っています。
書いたことがすべて現実になってしまって、怖くなってきた則安くんは、最後にある行動を起こします。その結果、ある不思議なことが起こります。
なんで、こんなおかしなことが......でも、あれ!? 日記をよく見てみると......
どんなことが起こったのか、日記がどうなったのか、それは読んでみてのお楽しみなのですが、この結末は、大人になった今読み返してみても、傑作と言えると思います。
子ども向けの作品だと思って油断して読むと、大人でもかなり驚かされますよ。
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- 勝木書店本店 樋口麻衣
- 1982年生まれ。文庫・文芸書担当。本を売ることが難しくて、楽しくて、夢中になっているうちに、気がつけばこの歳になっていました。わりと何でも読みますが、歴史・時代小説はちょっと苦手。趣味は散歩。特技は想像を膨らませること。おとなしいですが、本のことになるとよく喋ります。福井に来られる機会がありましたら、お店を見に来ていただけると嬉しいです。