『秘密《異形コレクションLI 》』井上雅彦:監修

●今回の書評担当者●八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実

  • 秘密 (異形コレクションLI)
  • 『秘密 (異形コレクションLI)』
    井上 雅彦・監修,平山 夢明,澤村 伊智,織守 きょうや,斜線堂 有紀,皆川 博子,&11その他,井上雅彦, 
    光文社
    1,100円(税込)
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 ちょっと待って、なんで私この本を知らなかったの?と平台の前で思わず声を出してしまった。

 さかのぼること2日前、とあるSNSで一方的にフォローしている女性が呟いていた『仕事が忙しくて書店に行けなかったけど久々に行ったらあの本の新刊が出ていた!嬉しい!早く帰って読みたい!』という文と、その後帰ってすぐに読んだのであろう、ほんの一言の感想が目に留まりとても気になったのである。

 一方的にフォローしている相手は私のことをもちろん知らないし、私も相手のことを知らない。同じアーティストが好きだという理由とそのつぶやきやイラストが好きでフォローをしているのだが、普段の生活を呟く人ではなかったため、まさかその彼女からいきなり自分野ともいう本の話が出るとは思ってもいなかった。

 自分の家の本棚を見せることは内面をさらすことに等しいというが、一方的にフォローしている彼女がどんな本を読んでいるのか知りたくなった。あの素敵なイラストを描く彼女が呟いた本はどんな本なのだろう。

 書店員とはいえ、自分の担当分野外の新刊をすべて知っているかというとそうでもない。むしろお客様の方が詳教しく、この本が面白かったのよなどと教えていただくこともある。

 ワンフロアーのお店なら自分たちで荷分けをするため、ある程度の新刊は分野外でもうっすらと記憶に残るが、フロアーが多層階に分かれている大きな書店では、すでに荷分けされたものがそのフロアーにあがってくるため自分の分野外のものを知ることがなかなか困難である。

 ただ今回の本は担当外とはいえ文庫本書下ろしだった。私の担当は今は文芸書だが、他の分野よりも文庫なら知っているはずだ。

 冒頭の序文を読むとこの本は復刊3冊目でシリーズを通して51冊目だという。一作目は1998年発行。え? もう書店員だったじゃん! ......ということで初めの一言に戻るわけである。

 長くなったがそのシリーズは「異形コレクション」。1998年に1作目が発行され2011年まで刊行されていたがそこから9年間のお休みを経て今年復刊。今月復刊3作目の「秘密」が発売された。最初は廣済堂文庫だったが2000年から光文社文庫にて発刊。

 井上雅彦さんが監修をしており、様々な作家さんがその時のテーマに沿って物語を編むアンソロジー、しかも書下ろしという贅沢な作品集であり、シリーズのタイトル「異形コレクション」からもわかるように幻想で怪奇、宵闇色(序文より)がまとう、唯一無二ともいえる作品集なのである。

 今回の「秘密」には16人の作家さんによる16篇が入っており、今をときめくミステリー作家さんから1巻目からその名を記す作家さんまで多種多様で、同じテーマでもこんなに捉え方が変わるのか!と唸らされる。

 中の作品ももちろん素晴らしいのだが、なんといっても井上雅彦さんが記す冒頭の序文と作品の初めに入る作家さんの紹介文がとても素晴らしく、それを読んだだけでも他の作品を読みたくなるほどのめりこんでしまった。

 これはシリーズの初めから読まねば!と思ったのだがなんと復刊3冊以外はいま手に入れることが困難なようで今年一番落胆した瞬間であった。こんな傑作が3冊しか読めないなんて! この3冊とこれから続くであろう異形コレクションを楽しみにこれから生きていこうと思う。

 何はともあれ、名も知らない一方的にフォローしている彼女にこの作品に出会わせてくれたことに感謝をしたい。食と読書の好みが合う人は無条件に信頼してしまう私でありました。

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八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
サガンと萩尾望都好きの母の影響で、幼少期から本に囲まれすくすく育つ。読書は雑食。読書以外の趣味は見仏と音楽鑑賞、ライブ参戦。東大寺法華堂と阿倍文殊院が好き。いつか見仏記のお二人にばったり境内で出会うのが夢。