『戦争めし』魚乃目三太
●今回の書評担当者●丸善お茶の水店 勝間準
夏になると思い出すのは母の父、つまり僕の祖父のことだ。
祖父は瀬戸内にある小豆島に住んでいた。
僕が小さい頃は夏になると家族で必ず祖父に会いにいき、お盆の時期は祖父の家で過ごすのが我が家の夏の行事だった。
祖父は島で漁師をやっていて、僕はよく船に乗せてもらっていた。
そのおかげで僕は車には酔うが船には酔わない体質になった。
ある年のこと、寡黙な祖父が台所でご飯を作っている時に鍋でご飯をどう炊いたらよいのかを教えてくれたことがあった。
なんで知っているのか聞いてみると、「戦争に行って飯炊き番だったからだよ」と教えてくれた。
そして、飯炊き番だったから生き残れることができたと言っていた。
そんなことを聞いたのは初めてだったので、当時の僕はすごくびっくりしたのを覚えている。
それ以降は戦争の話はまったくしなくなり、今考えてみるともっと色々と聞いておけばよかったと思うが、祖父は戦争の話はあまりしたくなかったのかもしれない。
今の日本には戦争体験を話せる人がいなくなってきている、だから僕は読み物でこれからを生きる子供たちに戦争の怖さ、悲惨さを伝えていくことができると思う。
そこで今回紹介したいのはこちらのコミック。
魚乃目三太さんの『戦争めし』1~7巻。
戦中、戦後を「めし」をテーマに描いている作品。
僕の祖父もまさにこういった経験をしたのかも?と思いながら読んだのは、一巻目の一話目「幻のカツ丼」は、小部隊の飯炊き番の人が話の中心。
彼が部隊のために最後に作った「めし」はカツ丼。
なぜ戦場でカツ丼が作れたのか、そしてそのカツ丼の秘密、一話目にして悲しくつらい物語だった。
生きるためには食べなくてはならない、だがその食事が生涯で最後になるかもしれないと思ったらどんな気持ちになるだろうか?
自分の大切な人が戦場にいくことになり、その時に好きな食べ物すら食べさせてあげられなかったとしたら?
食べるということが生きるための行為なのに、戦時中はそれが死を決意した人への手向けとなる。
それは悲しすぎることだし、もうあってはならないこと。
戦争は過去にはあったのは事実だけど、未来には絶対あってはならいない。
だからこそ、この作品をたくさんの人に読んで欲しい。
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- 丸善お茶の水店 勝間準
- 1981年大阪市内の中華料理屋の息子として生まれる。新卒時に入社したスーパーを辞めた後なんとなく働き始めた書店で本を読む楽しさ、売る楽しさを知る。コミックエッセイ、食マンガ、食小説、食エッセイ大好き書店員。生まれて初めて買った本は『ミスター味っ子』。この機会に美味しい本を紹介したいです。それではいただきます!!