『首無の如き祟るもの』三津田信三

●今回の書評担当者●岡本書店恵庭店 南聡子

  • 首無の如き祟るもの (講談社文庫)
  • 『首無の如き祟るもの (講談社文庫)』
    三津田 信三
    講談社
    1,210円(税込)
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寒いのが嫌いなくせに、どうしても家の中で靴下を履いていることができない岡本書店恵庭店の南です。
今月も読んでくださりありがとうございます。

今回は大好きな三津田信三さんの刀城言耶シリーズ最高傑作『首無の如き祟るもの』(講談社文庫)について書かせていただきます。

私は昭和のかおりが漂うミステリーが大好きです。
テレビの金田一耕助シリーズなんて何度見返したことか。ちなみに古谷一行さんの金田一がお気に入り。
誰も携帯電話なんて持っていないし、いざ事件が起きたら駐在さんを走って呼びに行く始末。
舞台は山奥の村などで、それもなぜか裕福な一族や特殊な生業の家族などが必ず絡んできます。
そんな世界観が好きな方なら、この三津田さんの刀城言耶シリーズはもってこい。

物語は奥多摩の山奥にある媛首村の旧家・秘守一族をめぐる戦中と戦後に起きる殺人事件の謎に迫るものです。
題名にわかるように死体には頭がありません。首無しなのです。
この土地には首無し伝説のようなものがあり、その呪いが一族を苦しめている。
このような設定、私、大好物です。
ミステリーが好きで、ホラーも好き、そんな私の読書欲を一気に満たしてくれるのです。

本の体裁としては、事件が起きた当時に村の駐在として勤めていた高屋敷巡査の妻が小説として執筆しているものという形をとっています。
夫の事件資料や当時に聞いたことなどを元にした高屋敷巡査目線での章と、秘守一族の使用人であるわずか6歳の斧高少年の目線での章、そして幕間に高屋敷妙子自身の考察という形です。
高屋敷巡査の章では事実や出来事があまり自身の憶測などが挟まれることなく理路整然と語られており、殺人事件としてありのままを描写しているのに対して、斧高少年の章ではその時に少年が感じたことや恐怖・恐れなどがホラー感たっぷりに書かれており、この尋常ならざる事件の雰囲気をものの見事に再現しています。

何よりも声を大にして言いたいのは、誰がこの結末を予測できたかということです。
少なくとも私は微塵も、本当に1ミリも予想していなかったです。
もうただただびっくり。そんなのありー!?って大声で言いたくなる。
刀城言耶シリーズが好きな人ほど驚愕してしまう。
なのでできればシリーズ最初から読んで欲しい所ですが、でもこの作品から読み始めても全く問題ありません。

そしてこの作品の面白いところは、当の刀城言耶についての記述が最初の方に少しと最後の謎解きの所にしかないところ。
読んでいて全然刀城言耶が出て来ないので、「これは本当に刀城言耶シリーズなのか?」と訝しんでしまいました。
これは、読み終えた方皆さん思うかもしれませんが、でも紛れもなくやはり刀城言耶シリーズ最高傑作であると私は断言したいのです。

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岡本書店恵庭店 南聡子
岡本書店恵庭店 南聡子
大学生の時にアガサ・クリスティを読破、そこから根っからのミステリー好きに。読書以外ではハンドメイドと和装、テレビゲームが趣味。お店では手書きPOPを日々せっせと作っています。色んな本に出会える書店員になってよかったと思う今日この頃です。