『叫びと祈り』梓崎優

●今回の書評担当者●岡本書店恵庭店 南聡子

「霧の浮舟」というチョコレートが大好きでした‼︎岡本書店 恵庭店の南です。今月も読んでくださりありがとうございます。

今回は梓崎優さんの『叫びと祈り』について書かせていただきます。
「叫び」と「祈り」という章を含む全5編の連作短編集で、斉木という何ヶ国語もペラペラなのよ~っていうナイスガイが全ての章で登場します。この何ヶ国語もペラペラというのが非常に大事。
なぜなら舞台は外国ばかりなのです。

この物語のすごく面白いところは、なんと言っても作者の情景描写力です。言い回しがひょっとするとキザっぽく聞こえるかもしれないけれど、私は田村正和さんが大好きだったのでモウマンタイ(無問題)です。アフリカ大陸の砂漠の物語ではなんとなーく息苦しいほどの熱を感じるし、ロシアの修道院の物語ではピリッとした静謐な空気を感じます。
臨場感がずば抜けていると言っても過言ではないと私は思いました。
ふんわりその場に行った気になれる、なんてお得な脳内小旅行。ザ・小説の醍醐味。

そして次に面白いところは、事件の動機がその土地ならではと言いますか、俗世間的ではないところ。事件の動機といえば、一般的にお金、名誉、異性関係、嫉妬、報復、口封じ、などが挙げられると思いますが、この物語ではそんなものは全然出てきません。
犯人は犯人なりの信念を持って、さっくり人を殺しちゃいます。
「え~、そんなんで人殺しちゃう⁉︎」って普通なら思いますが、この小説の中に入っちゃえば、「そっかー、そこは譲れないところだったんだね。」ってなんか納得しちゃう。
それくらいに人間の短絡さと複雑さが絶妙なんです。

第5章の「祈り」は何か事件が起こるわけではないのですが、この物語の集大成というか、第1章から第4章がなんのために語られていたのかが明らかになります。
第3章と第4章はなんだか尻切れとんぼみたいに終わっているんですが、これも第5章を読むとそういうことか~と私は納得できました。
これはあくまでも私個人の意見ですが、話をここまでしか聞いていなかったからだと思いました。あんまり書くとネタバレしちゃうので控えますが、「祈り」の込められた章です。

全ての章がそれぞれ違ったテイストで味付けされていて、読んでいて本当に飽きない素晴らしいミステリー小説だと思います。コロナでなかなか外国を旅することも難しくなったので、ちょっとでも外国の香りに触れたくなった方もどうぞ読んでみてください。

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岡本書店恵庭店 南聡子
岡本書店恵庭店 南聡子
大学生の時にアガサ・クリスティを読破、そこから根っからのミステリー好きに。読書以外ではハンドメイドと和装、テレビゲームが趣味。お店では手書きPOPを日々せっせと作っています。色んな本に出会える書店員になってよかったと思う今日この頃です。