『此の世の果ての殺人』荒木あかね
●今回の書評担当者●岡本書店恵庭店 南聡子
コンタクトを着けているのについ癖で眼鏡をあげる仕草をしてしまうド近眼の岡本書店 恵庭店の南です。
今月も読んでくださりありがとうございます。
今回はまだ刊行されたばかりの荒木あかね『此の世の果ての殺人』(講談社)について書かせていただこうと思います。
物語はあと数ヶ月で地球上の人類は滅亡するという時、福岡県太宰府市を舞台に始まります。
「テロス」と呼ばれる小惑星が熊本県阿蘇郡に衝突することが発表され、日本の国民たちは少しでも衝突地点から離れるべく海外に脱出するか、悲観して自ら死ぬことを選び、国内に留まる人はごくごく僅か。
ライフラインは止まり、食料も残り少ないというthe此の世の果ての真っ最中になななんと連続殺人事件が起こってしまうのです。
えー、そんな時にわざわざ人を殺すの!?
どうせあと何ヶ月かで人類皆死んじゃうのにー!?
っていう驚きがまず湧き起こります。
これは主人公のハルちゃんも同じです。
まあ、誰でもそう思いますよね。
でも、このハルちゃんもなかなかの変わり者で、こんなthe此の世の果ての真っ最中に自動車学校に通って教習を受けてます。
いやいや、すでにガソリンは流通していなくて車も走ってないんですよ。
そもそも無免許運転を取り締まる警察もその機能はほぼ停止しております。
もちろん教習を受けているということは運転を教えている教官がいるということです。
変わり者no.2のイサガワ先生(女)です。
表記がずっとカタカナで「イサガワ先生」なのもなんだかエキセントリックさを醸し出しています。
このイサガワ先生、元警察官ということで連続殺人事件の捜査を勝手に始めてしまいます。
正義感なのかそれとも地球滅亡までの暇つぶしなのか。
そしてその捜査の腕はなかなか大したもんなのです。
こうしてハルちゃんとイサガワ先生のもしかしたら地球最後の殺人捜査が幕を開けるのです。
捜査を進めるうちに被害者たちとハルちゃんの弟との繋がりが明らかになっていき、ハルちゃんは殺人犯はもしかして弟かもしれないと思うようになります。
すでに両親はそばに居ない、唯一の家族である弟。
そんなに仲が良くなくても、弟を守りたいと思うその気持ち、よーーーくわかる。
もうすぐ人類が滅亡するのに、自分のことを全く知らない人と一から人間関係を築くのは無駄骨のような気がするし、小惑星が衝突する瞬間は自分のことを知ってくれている人と迎えたいと思うのもわかる気がします。
もし私ならやっぱり最期の時は家族と一緒にと思います。
物語は終末感が漂う雰囲気の中で進んでいき、とうとう犯人がその本性を現します。
殺人の動機もthe此の世の果てそのもの。
きっと犯人も人類滅亡という未来が無ければ、殺人など犯していなかったと思います。
そう考えると犯人もちょっと気の毒だなぁと感じてしまいました。
物語の終わりに、なぜハルちゃんが車を運転したかったのか、その訳が明かされます。
そして読み終わったら、なんだか一本のロードムービーを観た後のような気持ちに。
達成感、満足感、寂寥感。
人類が滅亡するのだから絶対にハッピーエンドじゃないんだけど、「納得して終われる」って十分に幸せなことだよなって改めて思いました。
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- 岡本書店恵庭店 南聡子
- 大学生の時にアガサ・クリスティを読破、そこから根っからのミステリー好きに。読書以外ではハンドメイドと和装、テレビゲームが趣味。お店では手書きPOPを日々せっせと作っています。色んな本に出会える書店員になってよかったと思う今日この頃です。