『沖縄島料理 食と暮らしの記録と記憶』岡本尚文=監修・写真、たまきまさみ=文

●今回の書評担当者●HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎

  • 沖縄島料理 食と暮らしの記録と記憶 (沖縄島探訪)
  • 『沖縄島料理 食と暮らしの記録と記憶 (沖縄島探訪)』
    岡本尚文,文:たまきまさみ,岡本尚文
    トゥーヴァージンズ
    2,090円(税込)
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 沖縄で暮らしてみて、食文化の違いにとても驚きました。沖縄へ来る前に沖縄そばやタコライスの存在は知っていたものの、それ以外は知らないことだらけだったのです。家庭料理におけるポークランチョンミート(いわゆるSPAM)とツナ缶の使用頻度の多さ、沖縄てんぷらのどこでも売っているお手軽なおやつ感、スーパーでビニール袋に入ったまま売られているゆし豆腐、弁当を買えば必ず隙間に入っている「ひじき」と「にんじんしりしり」のすぐれた汎用性。そして名前を見てもどんな料理なのかピンとこないけど非常においしい「イナムルチ」と「ナーベーラーンブシー」。

 これらは地元スーパーはもとより、沖縄県内にある全国チェーンのスーパーやコンビニの店頭にも並んでいます。沖縄料理として特別に設置されているというよりも、人気の定番料理だからメイン商品として売場に並んでいるのです。沖縄料理は県民の生活にしっかりと根付いていると言えるでしょう。

『沖縄島料理 食と暮らしの記録と記憶』は、沖縄の飲食店を掘り下げて紹介している本です。しかしこれは、ただ単に料理の作り方が載っていたり、観光客におすすめの飲食店の紹介をしたりという本ではありません。飲食店の方にインタビューを行い、そこで提供される料理、店の成り立ち、そこで暮らしてきた記憶を掘り下げて記録し、ひいては沖縄の歴史と文化への深い理解をうながす本なのです。

 たとえば「長堂(ながどう)豆腐店」について書かれた章では本土と全く違う作り方をする「島豆腐」の解説や、現店主・長堂茂さんの豆腐作りの動作、祖母から父そして子へと3代続いた豆腐店の歴史が写真とともに語られます。さらに、長堂豆腐店で作られた島豆腐を販売する食料品と生活雑貨の店も写真入りでインタビューが載っています。その中の「隣近所のおばあちゃんたちから『茂さんのお豆腐がなかったらどうするんだ』とお願いされて。豆腐売ったことないからまずは3丁頼んで、それからずっとです」という販売店の店主の言葉から、さまざまものが読み取れます。その地域にとって島豆腐がいかに大切な存在であるか。そして販売店と隣近所のおばあちゃんの、頼られたら応えるという関係の深さ。一軒の豆腐店の話からはじまり、地域に住むひとびとの暮らしまでが見えてくる、とても深いエピソードです。

 ほかにも、1958年に創業し琉球王朝の宮廷料理を守り続ける料理店、米軍占領下の雰囲気が濃く残るステーキハウスの名店、嘉手納基地のゲート近くで営業を続けるカフェなどが掲載されていて、ひとつひとつがまるで映画のような濃密な時間と場面を見せてくれます。

 料理という切り口からとらえた沖縄の歴史と文化。その記録と記憶を広く永く伝える貴重な本です。

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HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
大阪生まれ、沖縄在住。2006年から書店勤務。HMV&BOOKSには2019年から勤務。今の担当ジャンルは「本全般」で、広く浅く見ています。学生時代に筒井康隆全集を読破して、それ以降は縁がある本をこだわりなく読んでみるスタイルです。確固たる猫派。