『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』斉藤倫=著、高野文子=イラスト

●今回の書評担当者●丸善博多店 脊戸真由美

  • ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集 (福音館創作童話シリーズ)
  • 『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集 (福音館創作童話シリーズ)』
    斉藤 倫,高野 文子
    福音館書店
    1,320円(税込)
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子供の時分は 
八月の底力を信じていた
「痛点まで」松岡政則
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 夏はぺたりと背中にはりつく。ドアの外に獲物が出てくるのを待ち構えている。子泣き爺のように。梅雨が明けたあとは、はよ涼しくならんかいな、以外の感想は持たなくなったこの季節。しかし、かつては待ち焦がれていたこともあったのだ。枝豆の塩加減よりも。

 さあさ、お立ち会い。まずは表紙に注目!「ポエトリー・ドッグス」×「るきさん」もうそれだけで、胸の高鳴りは沸点。丼飯三杯、塩ジャケよりも梅干しよりもつばがでる。

 ぼくの家に遊びに来る、きみは小学生。なぜか、ごはんの支度をしているタイミングで、いつもやってくる。「わーれはうーみのこ、しーらないのー」と、うたいながら。ごはんができるまでにと、きみに詩の本を一冊わたす。きたよ、あのパターンだ。

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向日葵、ゆっくり廻れ
アイスクリームは死ね
「海をみにゆこう」長田弘
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 夜が明けるのを待っていた。暗くなるとオバケが出ると信じていた。(あなたの知らない世界の見過ぎです)明日はなにして遊ぼうか。どこに行く?夏よ、終わるな。と、本気で祈っていた。

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「本はなにから、できているか、しってるだろ?」
「本に見えるけど、ここにつんであるのは、ゆかから、はえている、木とおなじことなんだ。ぼくは、かんようしょくぶつ、と、呼んでいる」
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 積読は床に置いてる盆栽。古本市は林。本屋は森で、図書館は山だ。ペーパーバックの手触りはふかふかと、やはり外国の木というかんじ。文庫本も、出版社によって、紙の質感と色はちがう。赤味がかかったり、黄色が強かったり。本棚は針葉樹と広葉樹が混じりあう山の風景。

 眠っているとき。ときどき、かんようしょくぶつが「ほっきょくの氷山が、くずれるみたいに」音をたてる。丑三つ時だったりするので、犬ねこのように、人間には見えないものを、本は察知しているのかもしれない。森にいたころを思い出して。

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「ねえ、気づいたよ。木のねもとを切ったらね」
「そしたら、本、ていう字になるんだね」
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 小学校からの帰り道。シュッと引き抜いて茎をかじると、すいかの味のする草が川っぺりに生えていた。しかしそこは、高確率で下半身を露出したおじさんがそこには立っている。スリルとサスペンス。感覚をいつも研ぎ澄ませていた。

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すいかの季節からまた次のすいかの季節まで
「ナチュラル・ミネラル・ウォーター」田中庸介
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 息を吸うのがヘタな日は、詩集をひらいて、文字の海に飛び込む。詩はおみくじのよう。ぼんやりページをめくっていると、こっくりさんのように、指は導かれる。

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「くちずさむだけで、だいじょうぶだ、とおもえるような詩が、せかいにはたくさんある」
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丸善博多店 脊戸真由美
丸善博多店 脊戸真由美
この博多の片隅に。文庫・新書売り場を耕し続けてウン十年。「ザ・本屋のオバチャーン」ストロングスタイル。最近の出来事は、店がオープン以来初の大リニューアル。そんな時に山で滑って足首骨折。一カ月後復帰したら、店内全部のレイアウトが変わっていて、異世界に転生した気持ちがわかったこと。休日は、コミさん(田中小実昌)のように、行き先を決めずにバスに乗り山か海へ。(福岡はすこし乗るとどちらかに着くのです)小銭レベルの冒険家。