『続あしながおじさん』ジーン・ウェブスター
●今回の書評担当者●文信堂書店長岡店 實山美穂
『あしながおじさん』の原題をご存知ですか? そう『DADDY-LONG-LEGS』ですね。こちらは有名なのでご存知の方は多いと思います。では続編はどうでしょうか? 『DEAR ENEMY』といいます。不思議なタイトルですよね? 今回は、あえて『続あしながおじさん』をとりあげてみたいと思います。
作者ジーン・ウェブスター。1876年アメリカ・ニューヨーク州生まれ。母方の叔父にマーク・トウェインを持ち、父親は出版社を経営したという環境に育ちます。1897年バッサー大学に入学。このときの体験をもとに『あしながおじさん』などが書かれました。1915年結婚。1916年女児を出産後、まもなく死亡。39歳でした。
『あしながおじさん』といえば、孤児院で育った少女ジュディが一人の資産家の目にとまり、毎月手紙を書くことを条件に大学進学のための奨学金を受ける話です。本文は初めの部分を除き、ジュディが書いた手紙からなっています。作中の絵も、作者の手によるものです。この作品は、日本でアニメ化もされ、1990年の世界名作劇場は、私も観ていました。原作を読んだのもその頃です。ただ"続"の方は知らず、書店員になってから『あしながおじさん』を読み返し、続編も読んでみました。
『続あしながおじさん』のあらすじ......大学卒業後ジュディは、あしながおじさんから、クリスマスプレゼントとして莫大なお金をもらいます。彼女の育った孤児院を模範的な施設に改革するためのものでした。ジュディは、大学時代の友人、サリーを孤児院の新院長として推薦します。
こちらの作品は、サリーの書く手紙でなりたっています。宛先がジュディだけではないので、前作より複雑です。サリーはスタッフたちと衝突しながらも、少しずつ孤児院に変化をもたらしていきます。サリー本人も、はじめは辞めたいと言っていましたが、いざ後任の決定を知らされると、無能な人間に私の子どもたちを渡せない、という強い気持ちをもっていることに気が付くのです。
前作では、20歳前後の女の子の目線で、孤児の心境などが綴られていました。ですが続編では、20代半ばの女性から見た孤児院の組織や、孤児たちの境遇について大人の目線で書かれてあります。
子どもの頃、『あしながおじさん』を読んだことがある人は読んでみてください。違った視点が楽しめることでしょう。それが、長い間愛され続けている作品の証拠であり、世代を越えた読書の楽しみ方のひとつです。だから、本には読まれるタイミングがあります。私個人の体験で、自分が大人になったからこそ『続あしながおじさん』を楽しめたように。さらに、何年か時間が経ってから読んだ時にどう思うのでしょうか。それも楽しみです。
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- 文信堂書店長岡店 實山美穂
- 長岡生まれの、長岡育ち。大学時代を仙台で過ごす。 主成分は、本・テレビ・猫で構成。おやつを与えて、風通しの良い場所で昼寝させるとよく育ちます。 読書が趣味であることを黙ったまま、2003年文信堂書店にもぐりこみ、2009年より、文芸書・ビジネス書担当に。 二階堂奥歯『八本脚の蝶』(ポプラ社)を布教活動中。