
作家の読書道 第228回:阿津川辰海さん
大学在学中に『名探偵は嘘をつかない』でデビュー、緻密な構成、大胆なトリックのミステリで注目を浴びる阿津川辰海さん。さまざまな読み口で読者を楽しませ、孤立した館で連続殺人事件に高校生が挑む新作『蒼海館の殺人』も話題。そんな阿津川さん、実は筋金入りの読書家。その怒涛の読書生活の一部をリモートインタビューで教えていただきました。
その2「家族も読書家」 (2/13)
――読む本は、学級文庫や図書室で出合うことが多かったのですか。
阿津川:学級文庫と図書室と、親が薦めてくれた本ですね。親が薦めてくれたのは、それこそ『大どろぼうホッツェンプロッツ』とかあまんきみこさんとか。伝記とかも買ってもらっていました。「かいけつゾロリ」や「ズッコケ三人組」は学校の図書室でまとめ読みしました。『三国志』は、親が横山光輝の漫画の『三国志』を持っていた記憶があるので、そこから小説も読み始めたんだと思います。漫画はほかに『ヒカルの碁』もあったので読みました。
あとは中学に入ってから、親が持っている東野圭吾さんや宮部みゆきさん、恩田陸さんの本を読みましたね。
――親御さんも読書家だったんですか。
阿津川:そうです。もう家族そろって読書家で。結構家にいろいろ本がありました。それで東野さん、宮部さん、恩田さんの本はその頃刊行されていたものはほぼ読みつくしました。
小学校5、6年生の頃は受験があったので勉強もしなくちゃいけなくて、中高一貫校に入ってからは解放されたように小説を読んでいました。
中学1年生の時に東野さんの「ガリレオ」シリーズのドラマをやっていたんですよ。だからクラスでも流行っていたんですが、「ガリレオ」シリーズ以外の話になると話してくれる同級生がいなくて、家族で感想を話すことが多かった気がします。『秘密』とか『白夜行』の話なんかをしてました。宮部さんは、実は青い鳥文庫に入っていた『ステップファザー・ステップ』と『パーフェクト・ブルー』が初体験で、中学では『理由』と『龍は眠る』にどハマり、恩田さんは『六番目の小夜子』、『ライオンハート』、『ユージニア』がとても好きで。
で、私が学校で教えてもらって伊坂幸太郎さんの『オーデュボンの祈り』を読んで、「伊坂幸太郎めちゃめちゃ面白いぞ」と家で布教しました(笑)。伊坂さんの小説って、エピソードや登場人物が緩やかに繋がってるじゃないですか。あれをマッピングするのが好きな中学生でしたね。で、確か、中学一年の時に「週刊少年サンデー」で大須賀めぐみさんの『魔王 JUVENILE REMIX』の連載が始まったんですよね。あれが凄まじく面白くて、まさか、伊坂さんの『魔王』と『グラスホッパー』と掛け合わせて、その相乗効果でこんな凄いエンタメと異能バトルを書くか、って。そんなこともあって、伊坂さんとの出会いは深く心に刻まれてます。だから中学1年生の頃は東野さん、宮部さん、恩田さん、伊坂さんの4人が私の中で超ブームでした。
――ごきょうだいはいらっしゃるのですか。
阿津川:6歳離れている妹が一人います。気質は似ているんですが方向性はちょっと違う感じですね。本は時折読んでいるみたいで、最近、妹から芦沢央さんや河野裕さんの名前が出てきてびっくりしました。芦沢さんは『カインは言わなかった』、河野さんは『昨日星を探した言い訳』が面白かったと。逆にはやみねかおるさんのことはあまり知らないようです。
――ああ、ミステリの原体験って世代で違いがありますよね。この取材をしていると、ある世代以上の人はたいていルパンとホームズ、少年探偵団を通っているんです。それが、阿津川さんの世代くらいになると、はやみねさんと漫画の『金田一少年の事件簿』を挙げる方が多くなる。
阿津川:はやみねさんは、私が中学生の時に「夢水清志郎事件ノート」シリーズの『卒業』が出て一回完結したんですよね。『都会のトム&ソーヤ』という冒険小説要素が強いミステリシリーズも始まっていましたし、同時代性が強かったのだと思います。妹は米澤穂信さんなんですよ。僕が高校2年生の時に「古典部」シリーズの『氷菓』のアニメがやっていて、学校のみんなも観ていたんです。高校生男子は「千反田えるには興味ないし」って顔をするんですけれど(笑)、妹は小学5年生か6年生だったので素直にハマったようです。折木奉太郎役の声優の中村悠一さんのことも好きらしく、そういうところが原体験になって、彼女は米澤さんからミステリに入ったようです。今大学生なんですけれど、最近、私が書棚の整理をしている時に米澤さんの作品を出していたら「貸して」って言ってきて、また読んでいました。その時に有栖川有栖さんも貸して、気に入っていましたね。