『SLAM DUNK新装再編版 20(愛蔵版コミックス)』井上雄彦

●今回の書評担当者●文教堂書店青戸店 青柳将人

  • SLAM DUNK 新装再編版 20 (愛蔵版コミックス)
  • 『SLAM DUNK 新装再編版 20 (愛蔵版コミックス)』
    井上 雄彦
    集英社
    660円(税込)
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 今年の初夏から夏にかけて平成を代表するスポーツ漫画が再び全国の書店に並び、売り場を大いに盛り上げてくれた。

「SLAM DUNK」。

 90年代に青春を謳歌した人の中で、この作品を知らない人はいないだろうし、学生の頃にバスケットに熱中していた人の殆どが本作を読んでいるに違いない。

 今さら説明するまでもない名作だが、本作は高校1年生の桜木花道(以後花道)が、バスケットが大好きな同級生の女子に一目惚れをし、彼女を振り向かせるためにバスケット部へ入部。人一倍の努力を積み重ね、やがてはインターハイに出場するような選手へと成長していく過程を描いた青春バスケット漫画だ。

 本作の魅力は多くの熱烈な読者が熟知している事だと思う。そんな中、本作の魅力の一つとして私がここで語りたいのは、読者にバスケットの初心者である花道の目線から、NBA級のプレイを悠々とこなす魅力的な登場人物達を見上げて、「いつか俺もあんな風にダンクや3ポイントを決めたい!」と憧れを抱かせてくれる事ではないかと思う。

 物語の序盤ではドリブルすらままならないド素人ぶりを披露していた花道だが、並々ならぬ努力を積み重ね、中盤以降には周囲の登場人物達の同等以上の試合をするまでに成長していく。花道にずっと自己投影をし続けてきた読者ならば、中盤以降の彼の活躍ぶりに感動せずにはいられないはずだ。

【ここから先はネタバレを含みますので、ぜひ最終巻までお読みになった上でお目通しいただければと思います】

 特に完結巻にも収録されている「対山王戦」の試合は、花道だけでなく湘北のベストゲームの1つだと思うし、台詞さえも不必要になってしまう程の試合の緊迫感を味わえる、数あるバスケット漫画の中でも間違いなく最高峰の試合に違いない。

 しかし花道は、この試合中に選手生命に関わるかもしれない致命的な負傷を負ってしまう。

 本作では完結巻に至るまでの間にも様々な場面で登場人物達が試合中、時には学校生活の中でも登場人物の深層心理を掘り下げ、時には青年漫画のようなシリアスで重たいテーマを描いた場面が少なからず描かれてきた。それでも本作が少年漫画として成り立っていたのは、強力なライバルが立ちはだかる度に体を限界まで酷使し、それでも超人的な体力と運動神経で立ち上がってはボールを追いかけ続けてきた、花道という絶対的主人公が揺らぐ事なく存在していたからだと思う。

 今まで積み上げてきたバスケットのスキルが瞬く間に失われてしまうかもしれないどころが、二度とバスケットが出来なくなってしまうかもしれない状況の中で試合を続ける花道の姿を、連載当時、一体誰が想像する事が出来ただろうか。この「らしくない花道」が描かれている完結巻は、間違いなく本作の最高潮だと言えるだろう。

 そして奇跡のような湘北高校の最終試合のその後が描かれた最終話。読者の分身でもある花道を通して描かれてきた物語は突如として終幕を迎える。こうして久しぶりに読み返してみると、花道達の「これから」を想像し、何時間でも語り合えるだけの最高の余韻を残してくれた事にこそ価値があるように思える。

 完結して20年以上経った今も尚聞こえる、続きを読んでみたいという声の数だけ、「SLAM DUNK」はこれからも無限大の未来を見せてくれるのだ。

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文教堂書店青戸店 青柳将人
文教堂書店青戸店 青柳将人
1983年千葉県生まれ。高校時代は地元の美学校、専門予備校でデッサン、デザインを勉強していたが、途中で映画、実験映像の世界に魅力を感じて、高校卒業後は映画学校を経て映像研究所へと進む。その後、文教堂書店に入社し、王子台店、ユーカリが丘店を経て現在青戸店にて文芸、文庫、新書、人文書、理工書、コミック等のジャンルを担当している。専門学校時代は服飾学校やミュージシャン志望の友人達と映画や映像を制作してばかりいたので、この業界に入る前は音楽や映画、絵、服飾の事で頭の中がいっぱいでした。