『いのちの車窓から』星野源

●今回の書評担当者●宮脇書店本店 藤村結香

 この原稿を書いているのは2020年の大晦日なので、まだ私は"2021年の新春ドラマを見ていない私"です。
 原稿がWeb上にあがるのは、あの社会現象にまでなった「逃げ恥」こと「逃げるは恥だが役に立つ」の新作新春ドラマが公開された後の世界。未来の私は新作ドラマにどんな感想を寄せているのでしょうか?

 2021年初めの本の紹介に悩んでいるときに、ふと「逃げ恥」のことを考えてしまったので今回は自然とこの本を選びました。
 2017年に刊行された星野源さんのエッセイ。元々雑誌「ダ・ヴィンチ」にて連載されていたものに書き下ろしが加わった1冊です。原稿を書くために、当時雑誌に掲載される度ツイッターで呟いていた感想を読み返していたのですが、なんだか面白いぐらいエッセイの回を重ねた分だけ、私自身が星野源という人に魅了されていっているのが伝わってきました。約5年前に呟いた「HOTEL」というタイトルの章に対する感想なんて『もう、マジで、何で?ってぐらい良すぎました。特に前半暗記したいぐらい好きです。』と呟き、しかもそこそこ共感を得ている(笑)。なるほど、当時の私はこういう感想を持ったのか、と思いながら久しぶりに読み返してみると「もう、マジで、何で?ってぐらい良すぎる」とやはり感じていたのでした。

"明日は休みだからまだ眠りたくないのに瞼が重くなってきてしまう...という時に、耳元から聴こえてくる優しい音楽"

 星野源さんのエッセイはそういうイメージです。
 読んでいるだけで楽しくて嬉しくて、気づくと口元が緩んでしまう。当時出演したドラマで共演した人たちとのエピソードや、ちぎりパンに対する怒りを語るベーシスト、一期一会が濃厚すぎたタクシードライバー、ゲームや柴犬といった愛を向ける対象について、作曲、夜明け等、どれを読んでも新曲ばかりが詰まった贅沢なアルバムを聴いているような心地よさ。
 当時周りでこのエッセイ集を読んだ人の感想を聞いたり見たりしましたが、ほとんどの感想が「もっと星野源を好きになった」といった愛に溢れていた。
 やっぱり凄いんですよ、このお方。
 
 この『いのちの車窓から』の魅力を更に倍増させているのは、装画や各エピソードの挿絵を描いた『すしお』さんの絵です。アニメ制作会社「トリガー」に所属する、アニメ「キルラキル」や映画「プロメア」の作画監督を務めた人気イラストレーターによる、ポップでキュートな曲線が魅力的な絵で描かれた星野源さんを見ているだけで、エッセイがより鮮やかになります。最強のコラボレーションです。2巻が出るのを首を長くしてお待ちしております。
 
 平積みにしたり、面出しにしたりと店だしの仕方はその時折で替えはしているけれど、この本を担当フロアから切らさないように心がけています。私にとってそういうエッセイです。

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宮脇書店本店 藤村結香
宮脇書店本店 藤村結香
1983年香川県丸亀市生まれ。小学生の時に佐藤さとる先生の「コロボックル物語」に出会ったのが読書人生の始まり。その頃からお世話になっていた書店でいまも勤務。書店員になって一番驚いたのは、プルーフ本の存在。本として生まれる前の作品を読ませてもらえるなんて幸せすぎると感動の日々。