『負けるな、届け!』こかじさら

●今回の書評担当者●勝木書店本店 樋口麻衣

「元気が出る小説」とか「勇気をもらえる小説」ってたくさんあると思いますが、こんなに心の奥から力が湧き上がってくるような小説、初めて読みました。それが、今回ご紹介する小説『負けるな、届け!』(こかじさら、双葉文庫)です。

 まず、この表紙を見てみてください。タイトルの「負けるな、届け!」という文字が本から飛び出しそうなほど力に溢れているように見えませんか?読み終わった今、この小さな文庫本の全身から、「がんばれ」「負けるな」という応援の大きな声が聞こえてきそうな気がします。

 理不尽な理由で25年勤めた会社をリストラされた小野寺かすみ。アラフィフ・独身、仕事が好きで地道に頑張ってきたプライドはズタズタ、崖っぷちに立たされたかすみが新しい人生の一歩を踏み出すきっかけとなったのは、友人に誘われて軽い気持ちで参加した東京マラソンの応援だった──。

 最初は応援の声も出せないかすみだったが、友人の高橋さんが大声で応援する姿に応援の力を感じ、ついには大きな声でランナーたちを応援する。すると自分の応援の声が胸に響いて、自分自身を励まし、自分自身の背中を押すことに気づく。そして、東京マラソンの応援に参加したその日の夜、フランスで開催される「メドック・マラソン」のエントリーボタンを勢いでクリックしてしまうのだった。

 そんな第1章から始まり、第2章以降も各章ごとに、かすみと関わりのある様々な立場の女性が登場し、「応援すること」を通して、人生を見つめていきます。彼女たちが前を向くたび、走り出すたびに、こちらも力が湧いてきて、「よしっ、私もやってやろうじゃないか!!」と叫びだしたいくらい、力が漲ってきます。走り続ける人たち、応援する人たちの姿がカッコよくて、美しくて、清々しさを感じられる小説です。

 スポーツに縁のない私は、応援は、するのもされるのも恥ずかしいと思っていました。そして、もうすでに頑張っている人を応援するのは、その人をさらに苦しめることになるのではないかという気持ちもあります。でも、かすみを応援に誘った友人の高橋さんは、大声で応援する理由をこう語ります。「『応援してる人がいるよ』って、しっかり伝えることが大事だと思う。頑張っている人に思いを届けるために声を張り上げる。」

 読後は、突き抜けるような青空の下にまっすぐ伸びる一本の道がイメージとして浮かびました。人生というこの道をゴールに向かって進むのは、他でもない自分自身だけれど、どうしても前に進めなくなってしまったとき、応援してくれる人が一人でもいれば、認めてくれる人がいれば、それが自信となって、次の一歩が踏み出せる、応援はその人のことを認めているという気持ちを届けることなんだ、そんなことを伝えてくれる熱くてさわやかな作品です。

 私はこの小説に応援されました。次は誰かのことを応援したいです。書店員である私にできる応援のひとつが、この本を誰かのもとに届けることです。伝えたい! 届けたい! 『負けるな、届け!』。

« 前のページ | 次のページ »

勝木書店本店 樋口麻衣
勝木書店本店 樋口麻衣
1982年生まれ。文庫・文芸書担当。本を売ることが難しくて、楽しくて、夢中になっているうちに、気がつけばこの歳になっていました。わりと何でも読みますが、歴史・時代小説はちょっと苦手。趣味は散歩。特技は想像を膨らませること。おとなしいですが、本のことになるとよく喋ります。福井に来られる機会がありましたら、お店を見に来ていただけると嬉しいです。