『アンダードッグス』長浦京

●今回の書評担当者●精文館書店中島新町店 久田かおり

 いやぁ、もうね、面白いの面白くないのってホントに面白すぎてたまりませんわ。

 これ、とにかく人がめちゃくちゃ死ぬんですよ。いきなり重要人物と思われる人が死んじゃって、おいおい嘘でしょ、マジですか?というところから話が動き始めるって、いったいどうよ。
 冒頭50ページほど読んだところで、これはもう途中で止められないな、と悟る。覚悟を決めて一気読み。

 あ、そう言えばデビュー作『赤刃』(講談社文庫)も血と内臓さらしまくり人が死にまくりの小説でしたね。読んでいる間中、自分の周りに血の臭いが漂っているようで。血なまぐさい小説がお好きな方はそちらもぜひ。

 というわけで『アンダードッグス』(KADOKAWA)です。「負け犬」たちです。負け犬は一人じゃなくグループ戦なのです。あらすじや登場人物紹介、著者インタビューなどはKADOKAWA文芸ウェブマガジン「カドブン」のサイトを見ていただくとよくわかります。キャッチーなコピーも載ってます(自慢しましたすみません)。

 これは国にはめられ全てを失った元官僚の古葉慶太が、ロシア、中国、アメリカ、イギリスの諜報部を相手に騙し騙され撃ち撃たれ死に物狂いで戦うアクション小説なのだけど、その戦いっぷりがすさまじい。ほんと、古葉慶太という男に惚れちゃうね。胡散臭い元官僚のくせに!!!
 そう、単なる素人がこんなに活躍しちゃっていいんですか? プロの方々、大丈夫ですか? と心配になるくらい古葉慶太大活躍。

 23回ほど「まじかっ!」と叫び、約16回「うがぁ」と顔をしかめる激しい展開。
 誰が味方で誰が敵か。嘘をついているのは誰か......なんてそんなことを悠長に考えてる暇なんてない。瞬時!とにかく瞬時にいろんな決断判断をしなきゃならない。ここで元官僚の面目躍如。彼にしかできない戦い方ってのがあって、いやはや、すごいよ、ほんとすごい。

 元官僚らしい根回し配慮、そして知力、計算力。そこにこの混沌の中で唯一ともいえる「誠実さ」を最後まで棄てなかった古葉慶太だからこそ、成し遂げた偉業。そうまさに偉業。

 物語は1997年の古葉慶太編と2018年の古葉瑛美編が交互に語られる、その意味! まさかの意味!!

 古葉慶太のキャラクター的に「優しさ」が命取りになりそうなのに、いや、何度も命取りになりかけてたのに最終的にそれがどんどんつながって2018年の「今」へ、ストンと。その感じがいい、とてもとてもいい。
 そして「あの」場面の気持ちよさはいったいなんだ! こんなにたくさんの血が流れ人が死ぬのに、あの場面ですべてが浄化される感じ。あぁ、気持ちいい。

 ヘビーでハードなアクションコンゲーム小説なのに、読み終わった後にさわやかな風を感じるこの不思議。
 それは騙す方にも騙される方にも、それぞれに人生があり、そこから始まる物語があるからで、それが読み手の情を刺激してくるからだろう。

 読みながら何度も浮かぶ「ざまぁみろっ!」という言葉。痛みと共に来るカタルシス。
 読み終わった後、自分も何か大きな敵と戦えるような気がしてくる。大きくて不穏で危険な何かと戦う自分を夢想する。

 あぁ本当に面白かった。
 これはもう「2020年手に汗握り小説大賞」に決定です! 面白すぎて鼻血出そう。
 この小説、ヤバ過ぎですってば!!

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精文館書店中島新町店 久田かおり
精文館書店中島新町店 久田かおり
「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用されて17年目の、現在、妻母兼業の時間的書店員。経験の薄さと商品知識の少なさは気合でフォロー。小学生の時、読書感想文コンテストで「面白い本がない」と自作の童話に感想を付けて提出。先生に褒められ有頂天に。作家を夢見るが2作目でネタが尽き早々に夢破れる。次なる夢は老後の「ちっちゃな超個人的図書館あるいは売れない古本屋のオババ」。これならイケルかも、と自店で買った本がテーブルの下に塔を成す。自称「沈着冷静な頼れるお姉さま」、他称「いるだけで騒がしく見ているだけで笑える伝説製作人」。