『三つ編み』レティシア・コロンバニ

●今回の書評担当者●宮脇書店青森店 大竹真奈美

 後ろから母が私の髪を梳かし、それを三つ編みに結う。そんな幼少期の思い出は、もし男だったら持ち得ない記憶だろう。私は女に生まれた。そのことは、今までどんな道を開き、どんな道を閉ざしてきただろう。

 人は生まれながらにして違う。生まれた性別、生まれた場所、置かれた環境、様々な要因が境遇を作りだす。その中で、どんな人生を歩みたいか思い倦ねて悩む場合もあれば、障害が立ちはだかり選択肢を阻む場合もある。

 本作は、三つの国の三人の女性が、各々理不尽な運命にありながらも、それぞれもがき闘う物語である。

 三人の主人公のひとり、インドのスミタは「ダリット」。カースト制度外の最下層身分「不可触民」である。そんな彼女の仕事は「スカべンジャー」。他人の糞便を素手ですくい取り、籠に入れ、それを担ぎ一日中裸足で回り歩く。そんな過酷な仕事をいつか娘へ受け継ぐ。そんな習わしを断ちたいと切望する。

 イタリア、シチリア島のジュリアは、伝統的手工業の工房で働いている。経営者である父が事故に遭い、経営破綻の危機が、まだ若い彼女の肩に突如のしかかる。

 カナダのモントリオールのサラは、40歳の敏腕弁護士。三人の子を持つシングルマザーで、子を預けながら必死に働いて得た地位は、トップの座を目前に、癌を患ったことで大きく揺らぎ出す。

 三人はそれぞれの逆境に懸命に立ち向かう。三者三様の人生は、少しずつ、少しずつ、交互に紡がれていき、最後には結びつく。そんな三つ編みを編み上げるようなストーリーだ。

 そんなフェミニズム小説といえる本作だが、驚いたのは、男女格差の度合いを示す2018年のジェンダーギャップ指数の、110位という日本の順位だ。これは作中の三国よりも最も低い。

 当たり前にお茶をくみ、当たり前に夫の姓を名乗る、子どもの産みづらい社会で、出産後の社会復帰は困難。そんなの仕方がない、それが社会の当たり前ーーいや、本当にそうだろうか。もしかしたら、当たり前過ぎて気づくことすらできない待遇の中に、いつのまにか私たちはいるのかもしれない。

 本作を読み進め開いたページのどこかに、そんな私たちを解き放つための自由への扉が、そっと潜んでいたような気がするのだ。無論、自分一人じゃ成し遂げられない。けれど、少しずつ伸びる髪ように、ささやかにでも前に進む。いつか変われる、変えられると信じて。

 挫けず、自由を求めてポジティブに前を向く三人のヒロインの姿は、私たちに勇気をくれる。読後、皮膚の下に流れる血潮が、まるで生命の河のように熱く身体中を駆け巡り、力が漲る。

 本を閉じ胸に抱くと、自分が三つ編みのひとつになれるような気がした。髪の毛のようにか細く些細なものでも、一本一本、世界中の絆を編み込んでいきたい。いつか全世界を包み、あたため合えるように。そんな希望が、涙とともに湧き上がって胸をいっぱいにするのだ。

 きっと誰もが三つ編みのひとつ。
 世界中の平和を願うように、この『三つ編み』を胸に、希望を織り成す。

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宮脇書店青森店 大竹真奈美
宮脇書店青森店 大竹真奈美
1979年青森生まれ。絵本と猫にまみれ育ち、文系まっしぐらに。司書への夢叶わず、豆本講師や製作販売を経て、書店員に。現在は、学校図書ボランティアで読み聞かせ活動、図書整備等、図書館員もどきを体感しつつ、書店で働くという結果オーライな日々を送っている。本のある空間、本と人が出会える場所が好き。来世に持って行けそうなものを手探りで収集中。本の中は宝庫な気がして、時間を見つけてはページをひらく日々。そのまにまに、本と人との架け橋になれたら心嬉しい。