『文盲』アゴタ・クリストフ

●今回の書評担当者●文信堂書店長岡店 實山美穂

  • 文盲: アゴタ・クリストフ自伝 (白水Uブックス)
  • 『文盲: アゴタ・クリストフ自伝 (白水Uブックス)』
    アゴタ クリストフ
    白水社
    1,026円(税込)
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 本ばかり読んで何もしない、と怒られたことはありませんか?
 この先5年間、本が読めないとしたらどうしますか?

 著者は、1986年に『悪童日記』でデビューした、アゴタ・クリストフです。その時、彼女は51歳でした。この『文盲(もんもう)』は、彼女の自伝です。

"わたしは読む。病気のようなものだ。手あたりしだい、目にとまるものは何でも読む。"

 1935年、オーストリアとの国境に近いハンガリーの、駅も電気も水道も電話もない、小さな村で生まれたアゴタは、印刷されたものは何でも読む、活字狂のような子どもでした。両親と兄と弟と暮らしていました。物語を話して聞かせるのも大好き。14歳で家族と離れると、寂しさを紛らわせるため、書くことも生きていくのに必要な手段となります。

 人生が大きく変わったのは、1956年ハンガリー動乱の時のこと。乳飲み子を抱いて、夫とともに西側へ亡命。この時、両親、兄と弟は祖国に残してきてしまいます。難民となり、スイスに受け入れてもらうと、ハンガリー語しかわからない彼女は、時計工場で働きながら、フランス語を勉強。祖国では文芸雑誌ですでにいくつかの詩を発表していました。読むこと、書くことが生きることだったアゴタにとって、言葉がわからない苦しさ、孤独感はいかばかりであったのだろうか。その後、フランス語で小説を発表するまでになった彼女は、フランス語を敵語とよぶのです。なぜかというと、自分の内にある母語をじわじわと殺していくから。

 アゴタの文章には、そんな苦しさが書かれていても湿っぽさはありません。訳者の堀茂樹さんが『どちらでもいい』(早川書房)の訳者あとがきで、"彼女の言葉は徹頭徹尾、モノクロームだ"と表現しています。この本が自伝であるのに、とても短いのは、彼女のシンプルな文章によるところが大きいと思います。本の厚みはないのに、奥が深い。言葉の数々に心が打たれるのです。

『悪童日記』を読んでいなくても、自伝を読むのに差し支えありませんが、アゴタの作品を読んでいる方がより、理解しやすくなると思います。『悪童日記』の双子のモデルは、アゴタと兄であるとか、その他のエピソードも気が付けると面白く読めるはずです。歴史についても、同じことが言えると思いました。知らなくてもアゴタの声を聞けばいい。彼女の挑戦と覚悟の気持ちは伝わってくるはずだからです。

 今回からの参加となりました。文信堂書店長岡店の實山美穂といいます。これからよろしくお願いします。『文盲』を紹介するにあたり、単行本は絶版であることがわかり、Uブックスの紹介になりました。

 ですが、表紙の印象が全く違うので、内容は同じですけど、本当にすすめたかったのは、単行本なので、良かったら探してみてください。

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文信堂書店長岡店 實山美穂
文信堂書店長岡店 實山美穂
長岡生まれの、長岡育ち。大学時代を仙台で過ごす。 主成分は、本・テレビ・猫で構成。おやつを与えて、風通しの良い場所で昼寝させるとよく育ちます。 読書が趣味であることを黙ったまま、2003年文信堂書店にもぐりこみ、2009年より、文芸書・ビジネス書担当に。 二階堂奥歯『八本脚の蝶』(ポプラ社)を布教活動中。