『ほねがらみ』芦花公園

●今回の書評担当者●明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花

 ホラー好きな私の夫は、ホラーがこの世で一番大嫌いだ。

 夏休み時期に商店街の一角の空き店舗を丸ごと改装し、お化け屋敷プロデューサー監修の本格的なお化け屋敷が期間限定でオープンした時、私は1ヶ月かけて夫を説得し、なんとか最終日に念願のお化け屋敷デートに行けることになった。

 このお化け屋敷、中の仕掛けのお化けが半分造り物でもう半分は特殊メイクを施した実際の人間が演じておりいつどこから何が襲ってくるのか分からないだけでも怖いのに、体験者がポイントごとでミッションに挑むというのがうりの1つであった。

 当日、順番が刻一刻と近づいてきていることにテンションの上がった私は不覚にも夫の異変に気付くことができず、さぁ私たちの番だ!と中に入ろうと勇ましく前進した私と同時に真っ青な顔をした夫がその場から係員の方の静止を振りほどきながら逃亡するという夏の思い出を爆誕させてしまった。

 あれ以降、我が家ではホラー映画をリビングで堂々と何本でも観ていい日は年に1日、ハロウィンの日だけになってしまった。

 多少の怖さでは笑ってしまう私が、未だに再読するのに勇気がいるのが芦花公園さんの『ほねがらみ』だ。シンプルに怖い。表紙を見ただけの夫は「目につかない場所に置いてほしい」と懇願するほど本から禍々しいオーラを放っている。

 怪談話を収集するのが趣味の主人公の元へ、様々な怪談話が集まってくるのだが、その1つ1つが全く関係のない話のようであって、どこかおかしい。全く別の場所での話、別の人間の体験談なはずなのに、読み進めていけばいくほど違和感は大きくなり、じわじわと真綿で首を絞めつけられているような不快感に近い不安感が襲ってくるのだ。

 何度も「続きはまた明日にしようかな」と半分その場から逃げるように本を閉じようとするのだが、この作品は決して逃亡を許してはくれない。

 この作品だけではない、芦花公園さんの作品は読みだしたら決して読者の逃亡を許さない、読者巻き込み劇場型ホラー作品なのだ。

 足を踏み入れたら最後、極上のホラーを心ゆくまで骨の髄まで堪能することになる。

 読了後の深夜、深い眠りにつく夫を無理やり起こし、トイレへの同行を心の底から懇願する私がいた。なんならほぼ泣き顔だ。居心地抜群の我が家なのに、ぴったりと何か不気味なものが纏わりついているような不安感と不快感が背中について離れない。

 どの作品にも言えることだが、今作は特に何のネタバレも受けずに読んで欲しい。私個人の「めっちゃ怖かったです」という陳腐な感想ですらネタバレになりそうな気さえする。

 1人でも多くの人にこの恐怖を堪能してほしいし、私のように泣きながらトイレへの同行募集する恥をかく仲間が1人でも増えることを願っている。

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明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
山口県岩国市育ち。13日の金曜日生まれの宿命かホラー好き、読むのはお昼派。ジャンル問わず気になった作品は何でも読みたい欲張り体質。本を読む時に相関図を書くのが密かなマイブーム。