『プリズン・サークル』坂上香

●今回の書評担当者●ジュンク堂書店池袋本店 小海裕美

 SNSや新聞など情報は毎日発信されている。書籍もその一つだ。

 書籍をジャンルに分け、分類に則った文脈で書棚に配架する棚づくりは、書店員の重要な仕事だ。棚づくりは、書籍の内容だけでなく、それを必要とするお客様がどの棚に足を運ぶだろうかということも考えて決めている。

 多くの書店で来店して一番目につく場所にある新刊・話題書棚は、フィクション・ノンフィクションに関係なく、今の世の中を反映しているのではないだろうか。書籍を見ていると発信される情報の多さや多様さに驚く。書店員でも、実際に目を通すのはそのうちのほんの僅かだ。全部を読破するのは不可能だ。だからこそ、タイトルや装丁など本の佇まいに惹かれて何気なく手にとった一冊が思いがけない出会いとなる喜びを知っているし、多くの人にこの喜びを知ってもらいたい。そんな思いで店頭に立っている。

 今回紹介するのは、坂上香著『プリズン・サークル』(岩波書店)だ。本書は著者が監督した映画と同題のノンフィクションである。受刑者が互いの体験に耳を傾け、本音で語りあうTCという更生プログラムをもつ男子刑務所、島根あさひ社会復帰促進センターに通い、日本で初めて「塀の中」の長期撮影を実現した著者の撮影の裏話と考察だ。

 実は、「刑務所」というキーワードは人気のコンテンツだ。犯罪者の実態を知りたいという物見遊山的なものから更生の物語、社会問題として扱ったものまでいろいろある。

 ジャンルに分けて、ページを開かずにいればそれまでだが、目を通してはっとすることがある。本書に関しては、もともと映画に興味があったのだが、白っぽい椅子が弧を描いて配置されている絵のシンプルだが力のある装丁に惹かれて手にとった。著者自身の葛藤や、理想的とも思える試みに、試行錯誤を経てどんな課題があるのか。コロナ禍はどう影響したのか。プログラムを受けた後の課題。そして、被害者と犯した罪への償いとは。答えの出ないことを含め、著者だからこその意見に考えさせられた。

 私の日常を見ても、失職して尞を追い出されたと言っていた老いた万引き犯、高額書籍の万引きを繰り返す着た切り雀のがりがりの若者など、できることはないかもしれないが知ることはできる。心理士の東畑開人さんが、3.11の当事者でない人が悲劇に関わることの加害者性とそれでもこころを寄せることの大切さをおっしゃっていたがまさに同じことが言えるのではないか。まずは読んで欲しい一冊だ。    

« 前のページ | 次のページ »

ジュンク堂書店池袋本店 小海裕美
ジュンク堂書店池袋本店 小海裕美
東京生まれ。2001年ジュンク堂書店に入社。自分は読書好きだと思っていたが、上司に読書の手引きをして貰い、読んでない本の多さに愕然とする。以来読書傾向でも自分探し中。この夏文芸書から理工書担当へ異動し、更に「本」の多種多様さを実感する日々。