『夜行バスで出かけましょう』小川かりん
●今回の書評担当者●八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
先日上野の東京国立博物館に、奈良聖林寺の国宝十一面観音菩薩像がいらっしゃったので何年かぶりにお会いしてきた。展示室に入った瞬間にどどんっといきなり主役の登場で、いろいろ寺宝などを見てから最後の部屋にいらっしゃると思っていた私は思わず2度見してしまった。一つの展示室にぎゅっと十一面観音菩薩像、同じく法隆寺の国宝地蔵菩薩立像、正暦寺の日光月光菩薩立像がおわすのである。以前は一緒にまつられていた仏像が明治時代に現在のお寺に移され、ここ東京で150年ぶりに再会したのだという。久しぶりだねえなんてお話でもしているのかなと離れたところから時間がたつのを忘れるくらい見ていたら、ここが少し薄暗いお寺の本堂のような気もしてくるから不思議だった。
そういえば最後に奈良、いや奈良どころか旅行に行ったのいつだっただろうかと思いスマホのカメラロールを調べたら2019年の12月だった。一年に何度かふらっと旅行に行くのが楽しみだったのに、2年も行っていなかったのかと思い懐かしくみていたら、夜行バスの写真が出てきた。旅行の楽しみの一つに目的地まで夜行バスに乗って夜中の寂びれた暗いサービスエリアに降り立つというのもあった!と忘れていたあの風景や空気を思い出し、本棚から久々にある本を取り出した。
『夜行バスで出かけましょう』岡山のイラストレーター小川かりんさんのコミックエッセイである。かりんさんも高速バスや夜行バスの旅が好きで、このエッセイでは友人と一緒に夜行バスの旅で東京にくるまでの準備や夜行バスでの過ごし方やノウハウ、さらにはちょっとしたコラムなどが満載に書かれている。
夜行バスっていえばあの水曜どうでしょうの過酷な...と思っている方がいたらぜひ読んでほしい1冊。私も実は夜行バスを体験する前はあの水曜どう...って思っていた一人である。このエッセイの中でも3列シートで旅行をしているが、いまや夜行バスは昔のイメージである4列シートだけではなく、個々に離れた2列や3列、さらには個室も存在し、電源はもちろんWi-Fiも使え、激安だけではなく豪華に夜から移動し早朝から目的地でゆったりと時間が使えるとても便利な移動手段なのである。
かりんさんが冒頭に書いている、日付の深い時間にあるバスの休憩時間に降り立つサービスエリアで見るトラックや車中泊の乗用車、知らない土地からやってきてどこかへ向かう同じような夜行バス、楽しいようなさみしいようななんともいえない不思議な気持ちが沸き立ちますという言葉、全く同じように私も感じていた。同じ日本なのにどこか異世界に着いてしまった感じ、あの感覚は乗った人じゃないとわからない世界なのかもしれない。
ちなみにカメラロールに残っていた夜行バスの写真は、サービスエリアで夜中に降りる際に全く同じ車体の夜行バスがいたるところにとまっており、よく迷子になるので降りる際に乗っていたバスのナンバープレートと風景を写真におさめておくという私なりの夜行バスちょっとしたノウハウでした。『夜行バスででかけましょう』を読んで乗ってみようかなと思った方ぜひ!
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- 八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
- サガンと萩尾望都好きの母の影響で、幼少期から本に囲まれすくすく育つ。読書は雑食。読書以外の趣味は見仏と音楽鑑賞、ライブ参戦。東大寺法華堂と阿倍文殊院が好き。いつか見仏記のお二人にばったり境内で出会うのが夢。