『野ばらの村のピクニック』ジル・バークレム
●今回の書評担当者●TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
いらっしゃいませ。
今週もお待ちしておりました。礒部です。
今回ご紹介したい本は、『野ばらの村のピクニック』ジル・バークレム(出版ワークス)です。
この野ばらの村シリーズは、全部で8巻ありますが、現在復刊で2巻目まで発売されています。
そして、この本。おそらく、日本で刊行されるのは、3度目。(礒部調べ)
私が初めてこの本に出会ったのは、たしか幼稚園の時です。
毎週連れていってもらっていた図書館にこの本が置いていて、よく眺めていたのを覚えています。
図書館のあの低い棚と、小さい椅子も、あの頃の思い出として一緒によみがえってきます。
---これは、野ばらの村に住む、ねずみたちのお話。
野ばらの村のウィルフレッドは、今日、待ちに待った誕生日を迎えました。
そこで、村のねずみたちは、ウィルフレッドをお祝いするため、びっくりピクニックを計画します。
でも、そのことを知らないウィルフレッドは、重い荷物運びに悪戦苦闘。
さて、このピクニック。うまくいくのでしょうか。
この素敵な絵に加えて、作中に出てくる、スミレの砂糖漬けや、さくらそうプディングに、木いちごのブランデー(この本では、ワインと訳されています)。
所狭しと並べられたビンや、おいしそうなお菓子。
見たこともない花の名前。
どれも小さい頃の私を夢中にさせました。
毎回出てくる、ねずみたちのおうちの断面図や、一匹一匹表情の違う、ねずみたち。
ひとつひとつ見ていると、胸がわくわくしてきます。
細かく描かれた絵を、よぉく見て下さい。
あれれ、このねずみはつまみ食いしようとしているのかな。
こっそりバスケットにプレゼントをつめようとしている、ねずみがいるぞ。
あのエプロンのポッケ、ずいぶんふくらんでいるけれど、何が入っているのかしら。
この絵本には、ねずみたちのちょっとしたいたずらと、やさしい気持ちがあふれています。
だいじにだいじに、丁寧につくられた、やさしいにおいのする絵本。
あの頃眺めていた本はもう手に入らないけれど、今回2度目の復刊で、また出会うことができました。
実は、1度目の復刊の講談社版『野ばらの村シリーズ』も、私の本棚にあります。
今回の復刊にあたり、講談社版より大きく、訳者も変わっての登場となりました。
講談社版は、だいたい15センチ四方とちっちゃくて、かわいらしい判型で、岸田衿子さんの訳。
出版ワークス版は、B5変形で、こみやゆうさんの訳になっています。
講談社版の、小さくて鮮やかな絵もいいけれど、出版ワークス版の、イギリスの少し曇った空を思い出す色味も、私は好きです。
それから、岸田さん訳も、こみやさん訳も、どちらも味わい深い。
こうやって、復刊に際して楽しめるのも、紙の本のいいところだなぁと思います。
今月下旬には、3巻目の『野ばらの村の秋の実り』が発売されます。
いまから、待ち遠しい。
- 『きこえる?』はいじまのぶひこ (2021年8月19日更新)
- 『食いしんぼう編集者も夢中になった 愛しいおかず』ウー・ウェン (2021年7月15日更新)
- 『調理場という戦場』斉須政雄 (2021年6月17日更新)
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- TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
- 1983年大阪生まれ。5年前に関東へ嫁いできました。2022年3月30日オープンのTSUTAYA BOOKSTORE 下北沢に出向中。おいしいカレー屋さんをたくさん見つけるのが、今から楽しみです。