『これが鳥獣戯画でござる』結城昌子
●今回の書評担当者●八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
2021年もあっという間に最後の月になり、毎日クリスマスのプレゼント包装に追われている。毎年こんなにも多くの人がプレゼントに本を選んでいることに驚きを覚える。子供の頃にサンタさんから絵本や小説、コミックなどをもらった子供たちは、きっと大きくなっても紙の本を好きになってくれるのだろうな、書店を好きになってくれるかなと思い嬉しくなる。
プレゼント包装のメインはやはり絵本で、問い合わせに絵本売り場に探しに行くことも増える。自分の分野以外の棚をゆっくり見ることが普段なかなかない中、この時期は児童書の棚にちょっと詳しくなるほど。
小学館のあーとぶっくシリーズを棚で見つけたのもその時だった。1993年出版のゴッホの絵本からシリーズが始まり、今年の12月に出版された新刊で23冊目。モネやピカソやルノワールから、マティスやモディリアニなどもシリーズに入っており、その後2019年から広重と北斎で日本編のシリーズが始まっている。そしてこの12月に若冲の絵本が出版された。「名画は、遊んでくれる」というキャッチコピーもとってもいい。その小学館あーとぶっくの中から『これが鳥獣戯画でござる』を選んで購入してきた。今年東京国立博物館にて特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が開催され、現存する4巻すべてを史上初公開ということで関連本も多く出版され、とてもよく売れていた。展覧会の会期中に行くことができず残念に思っていたのもあった。
ページを開いてみて驚いた。子供向けということだがそれだけではもったいないくらいびっしりと、それでいてとても楽しく説明が書かれており、もちろん絵もその場面ごとに細かく拡大されウサギやカエル、サルなどの様子が目の前で生き生きと動いているよう。長い絵巻なので甲巻の紹介がメインながらも、乙巻丙巻丁巻にも触れられており、鳥獣戯画の摸本や歴史もしっかりと書かれていてとてもわかりやすい。最後のページにはカエルがウサギを相撲で投げ飛ばしているあの有名な場面と共に「すっとこどっこい!つらい事に出くわして 悲しんでばかりなんてつまらないでござる 声をあげてわらってみようよ」と書かれていた。この一年、前に進めているのかわからない日々の中、心から声をあげるほど笑ったことが数えるほどしかなかった心に深く沁みた。こうやって絵画を見、読書をする中で癒しをたくさんもらった一年だったなと感じる。
今年一年本当にありがとうございました。また来年も多くの素敵な作品に出会えますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
- 『おちゃめなふたご』ブライトン (2021年11月25日更新)
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- 『夜行バスで出かけましょう』小川かりん (2021年9月23日更新)
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- 八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
- サガンと萩尾望都好きの母の影響で、幼少期から本に囲まれすくすく育つ。読書は雑食。読書以外の趣味は見仏と音楽鑑賞、ライブ参戦。東大寺法華堂と阿倍文殊院が好き。いつか見仏記のお二人にばったり境内で出会うのが夢。