『風景の石 パエジナ』山田英春

●今回の書評担当者●八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実

  • 風景の石 パエジナ (不思議で奇麗な石の本)
  • 『風景の石 パエジナ (不思議で奇麗な石の本)』
    山田 英春
    創元社
    1,980円(税込)
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 年末になるとたいがい内容を忘れてしまうのだが、元日に1年の目標を決めてその年に使う手帳に箇条書きで羅列している。達成できるか否かはさておき、前の年の後悔は前の年に置いてきて、新たな気持ちで書くことが大切だと勝手に思っている。『本をたくさん読む 興味を持ったものをジャンルにとらわれず』というのも今年の元日に決めた目標の一つだ。

 その目標を達成すべく、仕事が休みだったのでのんびりとコーヒーなど飲みながら小説を読んでいた。ふとその中の一文に目が留まって先を読めなくなってしまった。

「"風景石"と呼ばれるものがある(中略)石の中に天があり、地がある。」(小田雅久仁『残月記』双葉社より)

 小さいころよく川や海で綺麗な石を見つけては持って帰ってきて飽きずに眺めていた。学生の頃には一緒に遊びに行った思い出の場所で内緒で石を拾ってきてそれを加工し、ネックレスにしてプレゼントしてくれた人がいて、どんなブランド品よりも嬉しかった。そんな石にまつわる忘れていた昔のことが一気に押し寄せてきた。

 私の性格の一つに、物事をやりきる前に気になったことを調べないと気が済まず脱線して元に戻るのが遅くなるということがあり、もうこればっかりは治せないと思っている。

 今回は"風景石"という言葉にとらわれてしまった。気になって気になって読んでいる小説の文字が目を滑っていく。読むのを諦めて調べてみると、最初は造語なのかと思っていたが、本当にある石のようだ。

 年始の仕事も始まりすぐに風景石の本を調べ、在庫がなかったので発注をし、購入してきた。『風景の石 パエジナ』(創元社)。

 表紙の装丁もさることながら帯文も目をひく。「石の中の峻厳な峡谷、青い海原、都市の廃墟。自然が生んだ奇蹟の景観』。しかも、メディチ家が統治するルネサンス期のフィレンツェで(再)発見された...とも書いてあった。そんな昔にブームが?!と驚いた。パエジナとはイタリア北部で採れる約5000年前に海底で形成された石灰岩の一種で、廃墟大理石やフィレンツェ石、パエジナ石(風景石)と呼ばれているとのこと。

 中はすべてカラーで様々な模様のパエジナの写真が多数並んでいる。まるでターナーの絵画のような淡い色の空と海、赤茶色の渓谷、そして豪華な額縁に縁どられているような模様は感動さえ覚える。まさに石の中に天があり地があるのだ。17世紀にはキャビネットやクローゼットに埋め込まれ聖書の場面が描かれたり、直接パエジナの上に絵を書いたりされており、その写真は一見して石とは思えないほどだ。

 パエジナ以外の世界の風景石も紹介されており、日本画や水墨画を見ているような模様も。採取地は秘匿されることも多く、需要がなくなるにつれ継承されず忘れられていったという風景石。いつかどこかで直接出会いたいものがまたひとつ増えた。

 今年も興味の向くままにその時に読んだ本を紹介できればと思っています。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
サガンと萩尾望都好きの母の影響で、幼少期から本に囲まれすくすく育つ。読書は雑食。読書以外の趣味は見仏と音楽鑑賞、ライブ参戦。東大寺法華堂と阿倍文殊院が好き。いつか見仏記のお二人にばったり境内で出会うのが夢。