『プチ哲学』佐藤雅彦

●今回の書評担当者●TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ

いらっしゃいませ。
まいどどうも。
新年早々の人事異動に踊らされている、礒部でございます。

今回ご紹介する本は、こちら。
『プチ哲学』佐藤雅彦(中公文庫)。

実は、今回の辞令、新天地への出向という、個人的には「うそーん」と思うようなものだったのですが、まぁ、書店員に限らず、会社員に異動はつきものです。
人生で3度の異動を経験していますが、大阪の店舗から東京の店舗へ移るとき、当時の店長から餞別として手渡された本があります。
文庫と単行本、あわせて5冊。
「店長がいつも読んでる本」というリクエストに答えて選んでくれた5冊でした。
これは、その中の1冊です。

よく、「想像力を持たなあかん」と言っていた店長でしたが、考え方を柔軟にするために読んでるのだと、そっけなく渡してくれました。

ピタゴラスイッチの人、といえばおわかりでしょうか。
著者は東京大学教育学部を卒業し、現在は東京藝術大学の教授。
電通在籍時代に『スコーン』、『ポリンキー』、『ドンタコス』や、『バザールでござーる』、その他に『だんご3兄弟』なんかもプロデュースされた方です。


経歴を聞いただけでも、この人の頭の中はどないなっとんねん、と。
俄然興味がわきますよね。
発想力の源を知りたい。

この本の内容は、まずはじめに味のあるイラストで示したあとに、簡潔な文で佐藤雅彦的プチ哲学が記されている、というものです。

例えば。
見開き右ページに、2匹のカエル。
1匹のカエルが、もう1匹のカエルを池に突き飛ばそうとしています。
左ページには、その様子を引きで捉えた絵が。
カエル2匹の横にはリンゴの木があって、頭上からカエルより大きなリンゴが落ちてきています。
そう、悪者かと思ったカエルは、もう1匹のカエルを助けようとしていました。

このあとに記された哲学は、「枠組み」。
私たちがものを見るときには、ある枠組みから見ているということを知らなくてはいけない、と。
うん、たしかに。

そこには答えが書いているわけではありません。
そこから自分のプチ哲学を紡いでいく。

ぼーっとしているときなんかに、ペラペラっとめくって読んでみると、そっかそっか、なるほどなるほど、私に置き換えると......なんて、哲学の道を気軽に散歩できちゃう本です。

ちょっと視点を変えてみるだけで、思わぬ突破口になったりするし、想像力があると、人の思いを汲み取れたり、前に進む原動力になったりする。

視野を広げたり、自由に考えることって、年を重ねるごとに難しくなるけれど、その小さなきっかけになる1冊です。

5冊の中には絶版になってしまった本もあって、全てご紹介できないのが残念ですが、私の狭くなっていく世界をこじ開けてくれました。

私も部下にかっこよく手渡せる愛読書を、今のうちに増やしておこう。
ちなみに、同じ著者の『解きたくなる数学』(岩波書店)も面白かったです。おすすめ。

それでは、新しい世界へ、いってきまーす!

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TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
1983年大阪生まれ。5年前に関東へ嫁いできました。2022年3月30日オープンのTSUTAYA BOOKSTORE 下北沢に出向中。おいしいカレー屋さんをたくさん見つけるのが、今から楽しみです。