『きこえる?』はいじまのぶひこ
●今回の書評担当者●TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
いらっしゃいませ。
まだまだ落ち着かない日々が続きますね。
毎度どうも、礒部です。
今回ご紹介する本はこちら。
『きこえる?』はいじまのぶひこ(福音館書店)
ことばが、少しだけ刻まれている絵本です。
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きこえる?
はっぱの ゆれる おと
きこえる?
はなの ひらく おと
きこえる?
ほしの ひかる おと
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そっと。
耳をすまして、感じて欲しい。
普段、聞こうともしなかった、おと。
実は数ヶ月前、メニエール病というやつを患ってしまいました。
症状が酷い時、お医者さまから「目を使いすぎるのもよくないんですよ」と言われ、本を読むのを控えることに。
まぁ、そんな時は本を読む気さえ起こらないのですが、少しマシになってきた頃、なかなか眠れずに布団の中から見上げた本棚から、『これならいけるかな』と、表紙をめくった一冊です。
耳鳴りがひどく、目眩と吐き気に襲われる中、音のある世界が心底ツライと思っていました。
ひさしぶりに開いたこの本に、いま、こんなに救われるなんて思いもしなかったです。
涙があふれて、止まらなかった。
そうか。こんなおともあったね。
過敏になっていた心が、穏やかになりました。
本書の中には、いくつかの、おとが出てきます。
どのおとも、かけがえのないおと。
絵も、シルエットだけを描いた、ごくシンプルなもの。
それが、とても美しい。
いのちのおと、というのは、静かで、尊く、すばらしいものだと改めて感じました。
ゆっくり、ゆっくり。
ページをめくってください。
本を閉じるときには、満点の星空。
どんなおとがするんだろう。
きれいなおとなんだろうなぁ。
もしかして、ささやきあったり、楽しくおしゃべりしたりしているんだろうか。
きっと、ひとりひとり、きこえるおとは違うのでしょうね。
自分だけにきこえるおと。
それも、素敵です。
以前から好きだった本ではありますが、より一層、大切な本になりました。
時々、イヤなおとも聞こえてくるけれど、そんなときはこの本を片手に、そっと耳をすましてみたいと思います。
- 『食いしんぼう編集者も夢中になった 愛しいおかず』ウー・ウェン (2021年7月15日更新)
- 『調理場という戦場』斉須政雄 (2021年6月17日更新)
- 『はじめてのおつかい』筒井頼子さく 林明子え (2021年5月20日更新)
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- TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
- 1983年大阪生まれ。5年前に関東へ嫁いできました。2022年3月30日オープンのTSUTAYA BOOKSTORE 下北沢に出向中。おいしいカレー屋さんをたくさん見つけるのが、今から楽しみです。