『とらのゆめ』タイガー立石
●今回の書評担当者●TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
いらっしゃいませ。
まいど、礒部です。
今回ご紹介する本は、これしかない。
『こどものとも 年中向き 12月号 とらのゆめ』タイガー立石(福音館書店)。
ぐうぐうぐう。
とらのとらきちは、ゆめの中をひとりで歩きはじめます。
ねむいねむい。
歩いていると、池や迷路が出てきます。
色や形を変えながら、とらきちは歩きます。
不思議な、ゆめの中のおさんぽ。
これは、1984年に月刊誌『こどものとも』に登場し、単行本にもなりましたが、長らく絶版になっていた絵本です。
それが今月、『こどものとも 年中向き』で復刊しました。
よもやよもや。
こんなことがあるなんて。
ドキドキが止まらない。
この本を手に、レジに並ぶひとときが、とっても楽しかったです。
あの『とらのゆめ』が、しかも月刊誌で復刊だなんて。
嬉しすぎるじゃないですか。
福音館さん、ありがとう。
知り合いが持っていたこの本を見せてもらったのは、書店員になってから。
何度も読むうちに、すっかり虜になってしまい、ずっとずっと手元にくるのを待ち続けていた一冊です。
表紙のとらを見てください。
みどりいろ。
変でしょ。
ちょっと気持ちわるいと思う人もいるかもしれません。
とっても、変です。
しかも、歩きながら、だるまになったり、シマシマだけになったりします。
迷い込んだ迷路も、ずいぶん変。
大人になると、つい意味を考えたり、ヒントを探したりしてしまいます。
でも、ゆめって、普通じゃありえないことが起きても自然と受け入れていたり、おかしな場面に出くわしても、ゆめだと許せちゃう。
変ですよね。
こどもたちと一緒に読んでいると、彼らはいとも簡単に、この世界に溶け込んでしまいます。
「すいかみたーい」とか、
「めっちゃ気持ち良さそう」とか。
時には、一緒に丸まったりして。
不思議を面白がる心と、そこに入り込める想像力。
いくつになっても、忘れずに持っていたいなぁと思います。
この心地よい気味のわるさも、静けさも、記憶に残る一冊。
刊行されてから40年近く経った今も、全く古びません。
私がこの本を好きな理由は、そこにあるような気がします。
考えてばかりも疲れちゃうから、たまにはぼんやりとゆめの中をおさんぽしてみるのも、いいかもしれない。
今夜も、この本を手に眠ります。
ぐうぐうぐう。
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- TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
- 1983年大阪生まれ。5年前に関東へ嫁いできました。2022年3月30日オープンのTSUTAYA BOOKSTORE 下北沢に出向中。おいしいカレー屋さんをたくさん見つけるのが、今から楽しみです。